ASTD2010報告

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  ASTD2010にみるリーダーシップ開発のWhat's New

○教育研修による行動変化は“早期追跡”が肝心?


多くの人材開発部門は、アンケートやインタビューなど、研修後に効果 測定を行っているが、経営者の60%が研修の結果として注目する「参加者 の現場での行動変化(レベル3)」はどのようにとらえればよいのだろうか?
第6回は、前回に引き続き、研修評価・効果測定理論と手法の権威たちの 対話から、「経営者が望む研修結果をとらえるためのヒント」を紹介します。

■講演概要

・今回も、研修効果測定の4段階評価モデルの普及に努めるジェームズ・ カークパトリック博士、ROI(投資収益率)の考え方を研修効果測定に応用 した5段階評価モデルの提唱者ジャック・フィリップス博士、研修そのもの だけでなく、準備や事後のフォローなど研修プロセス全体を評価する必要が あることを明らかにしたウェスタン・ミシガン大学のロバート・ブリンカホフ 博士の3名のパネルディスカッションの内容を紹介する。
・カークパトリック博士、フィリップス博士の両名の対話によると、リーダー シップ開発プログラムの効果測定は、現場での実践が求められるため、 トレーニングのパートにおける反応や学習効果を測定するだけでは不十分で ある。もし、レベル4(結果:研修実施の目的に合わせた事業や組織上の 成果に対する評価)を測定し、プログラム全体の結果をつかもうとすると 2年はかかる。
・しかし、経営者はそんなに長い期間は待てない。だから、トレーニング後の 参加者の行動が変わったことを早くつかんで経営者にフィードバックする ことが効果をアピールする現実的な手段と言える。
・参加者の行動変化は、トレーニング後5日から1週間の間に探したほうが よい。それ以上経ってしまうと、現れた行動変化がトレーニングの結果なの かどうか、わからなくなってしまう。したがって、レベル3の“早期追跡シス テム”構築こそが、60%の経営者が注目する結果をもたらすことになる。
・また、ディスカッションの最後には、個人の能力開発や企業の経営成績 向上に限らず、組織の主要課題解決に教育研修が貢献できることを示せ、 という3名からの提言もあった。
・例えば、昨今の米国では、いかに組織に優秀な人材を留めておくか (=リテンション)が組織の課題となっている。教育研修の提供の充実で、 リテンション維持を狙うという目標を掲げ、その結果をリテンションの水準と いう指標で測れば、「組織課題への貢献」という効果を示せる、との具体的 なアイデアも提供された。

■エレクセの所感:参加者の行動変化を「見える化」するということ
・長期的投資の視点が持ちにくい米国の経営者からしてみれば、短期に 成果が「見える化」しづらい教育研修に対して投資を控えるのも無理は ないのかもしれない。
・だからといって、短期的に研修そのものの満足度や学習効果だけを測定 しても、学習が仕事に結びついていると言えるどうかは疑問だ。それなら やはり、参加者の行動変化を測定することにトライしてみることが必要 だろう。
・例えば、研修の半年後、1年後、本人のふりかえりや上司や同僚、関係者 を通じて参加者の行動変化を追うことはできる。ある企業では、3~1年前の リーダーシップ研修の参加者に対し、「参加した研修を役立てているかどう か」を調査した。
・回答者中92%の人が受けた研修が現在「役立っている」と答え、どう役立 てているか、何を心がけているかを具体的に記述した人は88%にのぼった。 これはひとつの行動変化の結果として十分に通用するだろう。
・効果の「見える化」をしない限りは、教育研修の重要性は語れない。
次回は、あらゆる価値観の人々が集まる “ダイバーシティの本場”米国の 「多文化の知恵を組織運営に活かすリーダー研修」について紹介します。

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○多文化の知恵を組織運営に活かすリーダー研修


第7回は、「グローバル組織運営のカギ」となる多文化マネジメントに ついて、多文化交流のトレーニングとコーチングに特化した米国のコン サルティング会社Intercultural Groupが提唱する「組織の意思決定に 文化の多様性を活かす知恵(Intercultural Intelligence)」を紹介 します。

■講演概要

・核となるメッセージは、グローバル組織運営のカギは、組織の意思決定 に文化の多様性を活かす知恵(Intercultural Intelligence)を取り入れること。
・Intercultural Intelligenceを活かすには、4つの原則(Principles)と4つの 行動規範(4R Rules)がある。
*4つの原則(Principles)*
①相違点ではなく類似点にフォーカスする
②他者の目線でものを見る
③現地(ローカル)の視点を大切にする
④文化の多様性を積極的に取り入れる

*4つの規範(4Rs Rules)*
①自分の見方が唯一の見方ではないと理解する(Realize)
②文化間には類似点があることを認める(Recognize)
③違いを尊重する(Respect)
④意思決定の仕組みに文化的要素を取り込み調和させる(Reconcile)

■エレクセの所感:欧米とアジアの価値観の違いを相互に実感する
・4つの原則をセッション参加者たち自身に考えてもらうため、プレゼン ターが実際に扱った多文化組織での衝突・対立の事例を討議した。
会場に集まったさまざまな民族・国籍の人の間で、ケース演習の登場 人物の言動に関する解釈は千差万別で、まさに文化・価値観の多様性 (ダイバーシティ)を実感するセッションだった。
・とくに、対面を重んじるアジア人の価値観と、ミスや問題点を組織内で オープンに情報を共有することを重んじる欧米の価値観の違いを、参加者 たちが「なるほど」と互いにうなずきながら共有していたのは印象的だった。
・欧米では、同じ組織に属する自律した人同士で判断材料を分かち合う という意識が根底にあるため、オープンな情報共有を重んじる。一方で、 アジア企業の組織運営は上意下達型で、部下を自分では判断を下せない 指示命令の対象とみなす傾向があり、上司の対面をオープンな情報共有 より重視する意識が強くなるという仮説を、会場での議論を通じて持った。

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○人材開発戦略を通じてイノベーションの加速に取り組む


第8回は、米国の情報通信企業クアルコム社の「イノベーションを加速 させる」人材開発、組織開発の取り組みについて紹介します。

■講演概要

・クアルコムは、無線技術を核とした情報通信の米国企業で、ASTD のアワード受賞や国際会議での事例紹介の常連。
・ケビン・オークス氏(ASTD日本支部顧問)がCEOを務めるi4cp  の調査(2010年1月)によると、1万名以上の社員を擁する好業績  の米国大企業では、人材開発の最大の関心事は「イノベーション」。
ちなみに、第2位が「パフォーマンス・マネジメント」、第3位が「タレ ント・マネジメント」。
・クアルコムによると、イノベーションの主な促進要因は、①イノベー ティブな人材の存在、②事業化・起業のしくみ、③リスクテークを促す 文化、④失敗を称える文化、⑤エンゲージメント向上への注力、の5つ。 とくに、失敗への恐怖・抵抗感を拭ってリスクテークを促すことが最も 大切であると訴えていた。
・クアルコムでは、経営トップから一般社員までイノベーションの尊重が 組織文化となっている。また、イノベーションを加速するため、企業 文化、人、しくみをカバーしたさまざまなしかけを設けている。代表的 なのは、「クアルコム52週間」(年間を通じて毎週クアルコムのイノ ベーション進化のストーリーを全社員にメール送付)、「トレードショー」 (間接部門も含む全部門で自部門の業務や近況を他部門の社員に 共有する展示会を開く。オンラインでも公開)、「QVF」におけるブート キャンプ(一定の投資原資を設け、3ヶ月間の集中プロジェクトを通じて アイデアの事業化を実現する制度)。

■エレクセの所感:イノベーションのカギは「自律した個人」「オープンな組織」
・クアルコムにはさまざまなしかけがあるが、その大半は大掛かりなもの ではなく、地道な手触り感があるものが多いのが印象的だった。一人 ひとりの社員にリスクテークを促すことが、イノベーションを組織文化と して根づかせる要になるからだろう。
・つまるところ、イノベーションを促すには、自律した人を尊重する組織 文化がカギなのだ。自分で考え自分で判断し自分で行動を起こすと いう自律した人を組織で増やすには、自分の判断や行動の結果が 失敗に終わることへの恐れをどれだけ減らすことができるかにかかっ ている。失敗を受け止めリスクを取り続ける組織文化をさまざまなしか けを通じて根づかせることが、イノベーションのカギだ。
・また、優秀な個人に頼るのではなく、組織全体で普通の社員たちが イノベーションを起こし続けるには、オープンな情報共有も大切だ。
情報を共有することで、昨日までの赤の他人が仕事仲間になる。 情報を共有することで、各人がバラバラに持っていた情報や知恵が 合わさりイノベーションを起こすアイディアにつながる。
・「自律した個人」と「オープンな組織」という今年度のASTD国際会議 のキーワードが、イノベーションを促す組織開発のカギにもなる。

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○周りのやる気を下げる「リーダーの10の致命的な欠点」


第9回は、立ち見続出の人気セッション、ジョー・フォークマンが語る
「リーダーの10の致命的な欠点」について紹介します。

■講演概要

・講演者のフォークマン氏は、ゼンガー&フォークマン社の共同創設者で、 リーダーシップ論の大家の一人。メッセージの内容は斬新ではないが、 ユーモアあふれる比喩と温かい語り口が印象的だった。
・同社が1万3千名のリーダーを対象に調査した結果、リーダーの評価項目で 一番評価が低く、組織成果においてベストパフォーマーとワーストパフォー マーの間の格差が一番大きかったのが、他人を鼓舞しモチベーションを上げ ること。したがって、リーダーが組織成果を上げるには、他人を鼓舞しモチベ ーションを上げることが最重要。
・周りの人のやる気を下げるリーダーの特性は、やる気を下げる度合いの順に、 下記の10項目に集約される。

1.エネルギーや情熱に欠ける。これは周りに伝染する
2.素晴らしい成果を凡庸なものとみなしてしまう。部下に対する期待値が上   がり続けると、誰しもが期待以下の仕事しかしていないように見えてしまう
3.明確なビジョンや指針を持たない。日常業務から離れて未来を考える時間   を意識して持たないと、未来のビジョンや指針を持てない
4.稚拙な判断や意思決定により信頼を落とす
5.チームプレーヤーになれない一匹狼
6.言行不一致のダブルスタンダード
7.ミスから学ばない/ミスを受け入れない/ミスを恐れる
8.人間関係構築スキルに欠ける
9.変化に抵抗する。将来、変化のスピードが早くなることはあっても、遅くなる
ことはない。変化に終わりがないことを受け入れる
10.自分の都合や利益にこだわり、他人を省みない

・これらの致命的な欠陥を直す最良の策は、他人からフィードバックを受けること。
通常、他人はあなた以上にあなたのことをわかっている。

■エレクセの所感:欠点を持つリーダーが気づかなければいけないこと
・上記の中でも、より致命的な①、②、③を避けることが、リーダーには欠かせない ようだ。①については、リーダーは、通常高いエネルギーを発していても、疲れて いたり、厳しい状況に直面していたりすると、エネルギーを保つのは難しい。
役員 フロアや社長室の存在は、オープン・リーダーシップと逆行するようで抵抗感が あったのだが、エネルギーあふれる状態を常に保つのは難しいとすると、役員個 室は必要悪なのかもしれない。
・自分の言動を振り返ると、②については思い当たることが多い。優秀なメンバーで あるほど、期待値を上げてしまう。優秀なのでもっと成長してほしいという気持ち から、強みではなく改善機会ばかりを指摘してしまう。
一方で、メンバーはリーダーの期待に応えようと、常に頑張っているが、いつもリーダーの期待に応えられない 不安に悩まされる。互いの善意が、互いのやる気を殺ぎ不幸な結果を招いてしまうのだ。
・③の未来について考える時間を意識して持つことの大切さを、フォークマン氏は  山登りの例え話で伝えていた。山登りの最中は苦しいので足元ばかりを見ている (ここで、山登りの時の自分の足の写真を写して会場の笑いをとっていた)。
足元ばかりを見ていると、気づかずに同じ道をぐるぐると回っているかもしれない (会場の多くの人は、思い当たる節があるのか、はっとしていた)。目を上げると、 素晴らしい風景が広がっているというのに、それに気づかずに通り過ぎているかも しれない(ここで、湖のほとりと遠くの雪山の美しい風景の写真を見せていた)。

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○「『LOVE』をリーダーシップに活かせ」


第10回は、リーダーシップに関する世界的なオピニオン・リーダーで あるケン・ブランチャード氏が、サウスウェスト空港における、サーバント型 リーダーシップの実践について紹介します。

■講演概要

・講演者は、ASTDの重鎮、世界的ベストセラー『1分間マネジャー』のケン・ ブランチャード氏。
そこに、1997年にフォーチュン誌で「アメリカでもっとも 働き甲斐のある会社」にも選ばれ、従業員満足第一主義で有名なサウス ウェスト航空の名誉会長コリーン・バレット氏を迎え、同社が9.11以降も高い 収益を上げ、黒字経営を成し遂げている秘密を、従業員や顧客のインタ ビュー映像を流しながら紹介した。
・そもそもリーダーシップとは、Strategic LeadershipとOperational Leadership に分けられる。前者は理念や目標、方向性を定めるリーダーシップであり、 一方後者は定められた目標達成を支援するリーダーシップである。
・組織において直接的な影響が大きいのは方向を定めるStrategy であるが、 お客様にとっては日々のOperationの方が重要である。よって、お客様満足 度をあげるためには、日々のOperationをどのように従業員に遂行してもらう かが、重要となる。
・その際、サウスウェスト空港の事例を紹介しながら、個人の良さを潰してしま うあるべきプロフェッショナル像を定めるのではなく、「keep people to be indi- vidual」を推進することで、全員が日々のOperationでサーバント型リーダー シップ(相手に奉仕するリーダーシップスタイル)を発揮できるようになることが 重要であると訴えた。
・従業員の強みを活かし、サーバント型リーダーシップを引き出すために、サウ スウェスト航空では権限委譲を現場レベルまで浸透させている。そして何より、 従業員を家族のように扱う。
祝い事はみんなで祝い、彼らが組織においていか に重要な存在であるかを感じさせる。「Love」を従業員に伝え続けることが、黒 字経営を続ける強さの秘訣となっているのだ。

■エレクセの所感:従業員満足を高めることで経営のゴールを達成する
・求められるリーダーシップスタイルは状況に応じて異なるため、サーバント型 リーダーシップがベストなリーダーシップスタイルということではない。 実際、ブランチャード氏が唱えた状況対応型リーダーシップのように、従業員の職務 能力や仕事への意欲によって、求められるリーダーシップは変わる。外部環境の 変化スピードなどもまた、変数となりうるだろう。
・サウスウェスト航空の紹介映像の中で、自身の仕事に誇りを持っている従業員 の姿や、お客様と共に笑い、泣いている従業員が非常に印象的だった。
この人たちは、サーバント型リーダーシップによって活かされ、自らもサーバント 型リーダーシップを発揮することによって、組織や顧客の喜びを生み出し、自身も 仕事に満足している。実際に離職率は5%を切っている。
・従業員満足度を高めることで、顧客満足度を高め、株主の満足も達成する。
シン プルに聞こえるが、今の日本でどのくらいの会社が実践できているだろうか。

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○「カリキュラム成功のカギは『経営層の関与』」


第11回は、世界最大のグローバル人材育成コンサルティング組織である AMA(American Management Association)の世界の企業約1000社に対する グローバル・リーダーシップ開発の最新動向調査について紹介します。

■講演概要
・AMAとi4cpが2010年にグローバルリーダーシップ開発調査を行った。
同調査によると、回答企業全体の4割がグローバルリーダーシップ・カリ キュラムを行っている。(回答企業数:939社、回答企業の内訳:米国企業 6割、米国以外の企業4割)
・カリキュラムの内容で、採用企業が多い順にトップ5は、①クリティカル・ シンキング&問題解決、②協力関係構築、③クロスカルチャーチームの 構築・リード、④チェンジマネジメント、⑤グローバル戦略の実行。
・MPI(売り上げの伸び、市場シェアなど市場成果)とGLSI(スキルの伸び など人材育成成果)の2つの指標で、カリキュラムの成果を測ると、MPIと 相関が高いカリキュラムは②③④で、GLSIと相関が高いカリキュラムは トップ5には入っていなかった。
・人材育成投資の評価指標(参加者の反応、学習到達度、行動変容、業務 成果、事業成果、顧客満足)の中で、MPIとGLSIの両方に相関が高かった のは学習到達度。
・プログラムの実行段階での経営層の関与が、MPI・GLSI両方の成果と 相関が高かった。一方で、企画段階や講師としての経営層の関与は、MPIや GLSIとの相関が高くない。
・人選の仕方と両方の成果指標との相関では、MPIと相関が高いのが、 ①直面するニーズ、②候補者の業務評価、③360度評価、の3つであり、 GLSIと相関が高いのは、①サクセッション・プラン、②直面するニーズ、 ③ハイポテンシャルなど。

■エレクセの所感:実行段階、成果実現とも経営層がカギとなる
・本調査は、米国企業だけでなく世界各国の企業約1000社が回答した 調査であり、グローバルリーダーシップ開発に関する最新データとして信頼 性が高いと思われる。
・プログラムの実行段階での経営層の関与がMPIとGLSIの両方と相関が 高いという調査結果は、改めてリーダーシップ開発に対する経営層の関与 の重要性を示している。とりわけ、実行段階での経営層のプレゼンスが大切 であることを再確認できた。
・リーダーシップ開発を通じて市場成果も上げたいのであれば、日常の業務 評価や360度評価を取り入れることで、経営層が恣意的に選びがちな後継 者やハイポテンシャルの人選を透明性高いものにする必要があるようだ。

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