ATD2011報告

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ATD国際会議

ATD(旧称:ASTD)国際会議は、年一回、世界80カ国から1万人が参加し、4日間で300ものセッションが行われる人材開発、組織開発に関する世界最大のイベントです
【ATDの詳細こちら(ATD INTERNATIONAL NETWORK JAPANのホームページ)】

ここでは、2013年に取材した、リーダーシップ開発に関する新しいトレンドとそこで得た知見をピックアップして皆様にお届けします

2011年度 開催日:2011年5月22日~26日 開催地:米国フロリダ州オーランド

2011年度 ATD国際会議 関連記事一覧


► 国際ビジネスコミュニケーション協会 グローバルマネジャー 寄稿
  2011年「米国におけるグローバル人材開発最新事情」ASTD国際会議 大会レポート

►「人材教育 2011年8月号」 寄稿

► 2011年「ASTD国際会議に見るHRの最新トレンド」

  • 連載:「ASTD国際会議に見るHRの最新トレンド」 (2011.6~)(全12回)
    本コラムでは、ASTDで語られる新たなHRの概念から、日本企業の人材開発・組織開発の方向性に関するヒントを数多く提供する。

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► 弊社発行メールマガジン記事
  ASTD2011にみるリーダーシップ開発のWhat's New

  

○ASTD2011全体概要 リーダーシップ開発の動向を4つのキーワードで知る

■ ASTD2011のトレンドを概説する

メインテーマは、“Learning to Lead(リードするための学習)”
セッションテーマの大きな流れとして、「組織対個人」、「組織対社会」の2つが挙げられる。
「組織対個人」の流れとは、組織開発手法ではなく、個人一人ひとりの内面に根ざしたリーダーシップ開発、学習に焦点を当てるセッションが多かったことである。
・例えば、基調講演では、マーカス・バッキンガム氏(元ギャロップのコンサルタント)が個人の強(Strength)を最大限に生かすことを主張し、ダグラス・コナン氏(キャンベルスープの会長兼CEO)は、個人の人生上忘れられない瞬間(Touchpoint)をリーダーが組織の中で創り出すことが必要だと話した。
・その他にも、S.コビィー氏の“Speed of Trust”(個人の信頼が生むスピード)や、Neuroleadership(個人の脳の反応に焦点を当てたリーダーシップ開発理論)の一連のセッションなどがその代表例である。
「組織対社会」の流れについては、組織と社会のつながり、組織の枠を超えた社会の知恵の取り込みに焦点を当てたSocial Learningを扱うセッションが確固たるポジションを得たことだ。
・ASTDのCEOによる基調講演では、最新の学習形式として、M-Learning(モバイル・ラーニング)の推進が提唱されていた。

■ASTD2011におけるリーダーシップ開発の動向

ASTD2011のセッションから、リーダーシップ開発の動向を「個人」「組織」「市場」「社会」の四つの層に整理してみると、それぞれのリーダーシップ開発の焦点は、次の4つのキーワードだと考えている。
①個人:Individual Insight(個人の内面)
  組織変革や組織の成果創出をめざし、人を効果的に動かすために、組織全体の風土や仕組みだけでなく、個人一人ひとりの内面に対しても働きかける。
②組織:Diversity&Inclusion(組織における多様性と求心力)
 ますます高まる組織の多様性を活用するために、異なる価値観や能力を持つ人たちを組織につなぎとめる「求心力」を高める。
③市場:Global Expansion(市場のグローバル化)
 企業のグローバル展開に伴うグローバルリーダーの育成は、いまや企業のリーダーシップ開発における、直近の重要課題となっている。
④社会:Social Learning(社会知の学習)
 ソーシャルメディアの劇的な広がりにより、インフォーマルラーニングを中心に学習と組織におけるリーダーシップのあり方が変わりつつある

■エレクセの所感

今年のASTDのテーマから読み取れるのは、組織の枠内で人事や能力開発、組織開発をとらえきれなくなっていること。企業人事は、組織の枠を超えて、どこまで個人一人ひとりの内面や社会にまで取り組む範囲を広げることができるのかが問われている。
日本企業以外のグローバルプレーヤーは、最先端の理論や取り組みを押さえた上で、自社独自の人事上の取り組みを模索している。日本企業の人事部は、「日本流」という名のもとに、国内同業他社同士で事例共有するだけでは、真の「自社流」の組織運営や人材成のしくみを構築するのは難しい時期に来ているのではないか。

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○リーダーの「たった一言」が周囲の人の生き方を変える

多くの参加者の共感を呼んだダグラス・コナン氏(キャンベルスープの会長兼CEO)の基調講演「TouchPoint(タッチポイント)」をご紹介します。

■講演概要
講演のメインテーマの「タッチポイント」とは、人生の中でその後の生き方や考え方に大きな影響を与える重要な瞬間を指す。講演では、タッチポイントの瞬間に大切な人から発せられる一言がいかにその人の人生にとって大事かが訴えられた。タッチポイントが組織で生まれるには、リーダー本人、周囲の人たち、取り組み課題の3つの要因が欠かせない。リーダーの行動の意義は、必ず他人との関わり合いの中で見出される。そして、タッチポイントを通じて、周囲の人たちの仕事へのコミットメントは高まっていく。
・したがって、リーダーシップにおいては、リーダーとフォロワーの信頼関係構築が重要。リーダーは、課題に対しては厳しい意思・覚悟で臨み(Tough Minded)人に対しては優しい心で接する(Tender Hearted)という、両者の両立が求められる。

■エレクセの所感

・今年のASTD国際会議では、リーダーシップに関するセッションが多いとともに、本基調講演も含めて、個人の内面に焦点を当てるセッションが目立っていた。
・昨年のダニエル・ピンク氏の基調講演では、リーダーシップにおける個人の「自律」に焦点が当てられていたのに対して、今年の基調講演では「リーダーとフォロワーの関係」に焦点が当てられた。
・特に、リーダーシップにおいて、フォロワーがリーダーと接する大切な瞬間(TouchPoint)を取り上げ、フォロワーとリーダーの両方の視点から、現職のグローバル企業トップが自身の生死に関わる体験や恩師との交流を交えて語っていたのが印象深かった。
・交通事故に合い10数時間にわたる手術が終わって目覚めたとき、枕もとにいた妻が発した“I’m here”という言葉が、その後のダグラス・コナン氏の生き方を変えたようだ(これが彼にとっての一つのタッチポイント)。多分、事故以前は、米国経営者にありがちな株主至上主義、四半期業績至上主義のToughMindな経営者だったのかもしれない。今は大企業のトップを務めるかたわら、自社以外のリーダーたちのリーダーシップ開発をボランティアで支援しているらしい。
・私自身も経営者の端くれだが、Tough MindとTender Heartの両立の大切さ、難しさを日々感じている。経営者やリーダーは、部下に任せた課題や業務について、詰めや見通しの甘さは直ぐに分かってしまう。経験が浅い部下、能力が低い部下であればそもそもあまり期待していないので優しく接することはできるが、優秀な部下には期待値が高くなり、つい厳しく接してしまう。課題に対して厳しく対処できないのでは、組織の命運を任されている経営者やリーダーとして失格だが、人に対してもToughになってしまい部下を萎縮させていないだろうか。そして、うつむいたり反発したりする部下を目の前にして、自分のToughな対応を後悔していないだろうか。
・ダグ・コナント氏は、“How can I help you?” (わたしに何かできることはあるだろうか)という気持ちで常に周りの人たちと接し、これまでより1日3回、周りの人たちとの対話や交流を増やしてみたらどうかと勧めていた。これで、あなたや周りの人の人生が変わるかもしれない!?

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○自分独自のリーダーシップスタイルが最高の効果をもたらす

「ストレングスファインダー」で日本でもお馴染みのマーカス・バッキンガム氏の基調講演から、「個人個人の強みを生かすリーダーシップ開発」をご紹介します。

■講演概要
・2011年の最初の基調講演は、強み(Strength)という個人の内面に焦点をあてた、マーカス・バッキンガム氏の「スタンドアウト(StandOut)」。
・バッキンガム氏は、ギャロップのコンサルタントを17年間務め、職場や人生へのエンゲージメントがテーマの著書は、これまで370万部以上売れている。日本でも、著書「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう」(日本経済新聞社刊)や、アセスメントツール「ストレングスファインダー」が知られている。
・彼は一貫して個人の強みを活かすことを主張しており、この基調講演でも 一律にひとつのリーダーシップの取り方を追いかけるのではなく、人それぞれが持つ“自身の強みを活かした役割(Strength Roles)”があり、その役割でリーダーシップを取ることが組織にイノベーションを呼び起こすと話している。
・彼が提唱する“自身の強みを活かした役割(Strength Roles)”とは、アドバイザー、コネクター(結びつける人)、クリエイター、イコライザー(バランスを取る人)、インフルエンサー(影響を与える人)、パイオニア、プロバイダー、スティミュレーター(刺激を与える人)、ティーチャーの9つ。講演では、この役割を見つけ出すアセスメントツール「スタンドアウト」も紹介された。 (「スタンドアウト」に関してのサイトhttp://standout.tmbc.com/gui/) ・パフォーマンスの改善において、45%の人が「強みの強化」に、55%の人 「弱みの克服」に時間をかけると言う。では、どちらが成功するのか?彼は、「自己の成長にチャレンジするなら、一番得意なところを伸ばす方が成功につながる」と答える。なぜなら、得意分野は、他の分野よりも早く学習でき、より創造的、協創的、革新的、洞察的になりやすく、強化しやすいからだ。

■エレクセの所感 

・組織におけるリーダーシップ開発の手法では、その組織のリーダーに求められるリーダーシップコンピテンシーを定義し、それを満たすためにアセスメントやトレーニングが行われてきた。つまり、一律に、求められている知識やスキルを一定のレベルに引き上げるプログラムの提供がメインになる。いわゆるギャップアプローチのスタイルだ。
・ASTD2011国際会議では、個人の内面に焦点をあてたリーダーシップ開発や学習についてのセッションが増えている。求められるリーダーシップコンピテンシーの強化という組織的なリーダーシップ開発のアプローチと、個人個人が自分の強みが活かせる役割を見つけ、その強化に主眼をおくリーダーシップ開発のアプローチでは、プログラムのあり方は変わってくると思われる。
・具体的には、“自分の強みを見つける”自己分析や内省での当人の気づきを基点とし、“どんな仕事の経験をすべきか”“どんな教えを受けるか”について、学習に対する当人の自律が求められるだろう。
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○企業業績に結びつくグローバルリーダーシップ開発プログラム

AMA(American Management Association)が2011年度に行った「グローバルリーダーシップ開発調査」(回答数:1750社、56カ国)の概要を紹介します

■講演概要
・この調査によると、回答企業全体の3割がグローバルリーダーシップ開発プログラムを行っている。
・そのうち、AMAが企業業績を測る総合指標として使っているMPI(売り上げの伸び、市場シェア、顧客満足度、収益性から成る市場業績指数)が高い「高業績企業」では、6割が実施している。
・プログラムを導入している約半数の企業は、プログラムが成果を上げていると答えているが、高業績企業では、“効果的である”と答えた企業が半数を超えているのに対し、低業績企業は3割にすぎない。一方で、“あまり効果的でない”とする割合は、高業績企業で1割を切るが、低業績企業では2割に達している。
・プログラム内容のトップ5は、①チェンジマネジメント、②クリティカル・シンキング&問題解決、③グローバル戦略構築、④グローバル戦略実行、⑤影響力および協力関係構築力。昨年の調査ではトップ5に入っていたクロスカルチャーチームの構築/リードがランク外になった。
・プログラムの内容決定で重視される項目のトップ3は、「企業価値観」、「長期的な企業戦略に基づいて導き出されたコンピテンシー」、「経営層の要望」。高業績企業と低業績企業の間で開きが大きく、高業績企業が重んじているのが「戦略的人材配置計画上のコンピテンシーと現状の格差」 MPIの低い低業績企業では、重視する項目がばらついており、どれかの項目に回答が集中していない。
・プログラムの成果測定では、高業績企業では、参加者の満足度や行動変容といった人材育成上の成果を重んじる企業が多いのに対し、低業績企業では事業成果(売上高、生産性など)を重んじる企業が多い。
・経営層の関与は、プログラム開発以外の項目では関与している企業が増えており、特に、事業成果の実現とプログラム実施に関する組織内でのコミュニケーションでは、経営層が関与する企業が半数を超えている。
・対象層は、高業績企業ではCEOを含む最高経営幹部候補とハイポテンシャルなマネジャー層が半数を超えており、それ以外にも幅広い層を対象としているのに対し、低業績企業ではハイポテンシャルなマネジャー層が4分の3を超え、その層に集中しているといえる。
・高業績企業は、グローバル・リーダーシップ・プログラムへの投資に人材育成投資を集中させる傾向があり、1割以上の高業績企業が、グローバル・リーダーシップ・プログラムに対して人材育成投資全体の4分の1以上を投資している。
・高業績企業は、プログラムのカスタマイズに積極的な企業が全体の4割なのに対し、低業績企業の3割は全くカスタマイズしていない。

■エレクセの所感

・この調査の一つの特徴は、調査回答者の中から「高業績企業」に属する回答者と「低業績企業」に属する回答者を、AMAが企業業績を測る総合指標として使っているMPIをもとに分類し、それぞれの回答者の回答結果を比較することで、グローバルリーダーシップ開発プログラムと企業業績の関係性を明らかにしているところだ。
・今回紹介した結果調査でも、プログラム導入の割合や、実施プログラムの効果に対する認識、取り組みの目的について、高業績企業と低業績企業では大きな違いがあった。
・以前にも増して、教育プログラムの投資対効果が問われる昨今、プログラムと企業業績の関係は、興味をかき立てるトピックだ。特に、その点に注目して、次回も引き続き、プログラムの対象者や経営層の関与度合い、研修投資など調査結果の概要と考察を紹介していきたい。
・調査の結果を概観すると、高業績企業では、グローバル・リーダーシップ・プログラムに人材育成投資を集中させて、幅広い対象層に対して多額の投資をしており、企業の長期的競争力向上を目的に、短期的な 成果ではなく人材育成効果を上げることを主眼として、積極的にプログラムを自社向けにカスタマイズしているようだ。
・一方、低業績企業は、そもそもグローバル・リーダーシップ・プログラムの導入比率が低く、人材育成投資を同プログラムに集中させている訳ではなく、対象層も一部のハイポテンシャル層に限定されている。導入目的はバラバラで、企業の長期的競争力向上を目指している企業は少なく、プログラム内容を目的に応じてカスタマイズすることにも消極的。だが、成果としては事業上の短期成果を求めている。
・高業績企業は、懐に余裕があるから、グローバルリーダー育成投資を戦略的に一貫性をもってできるのだろうか。一方で、低業績企業は、投資原資が限られているため、プログラム導入に消極的で、対象層も限定され、独自のプログラム導入に消極的なのだろうか。
・それとも、高業績企業は、長期的視点から明確な目的をもってグローバルリーダー育成投資について対象層を広げて集中投資をし、人材育成の成果を上げるためには目的に応じてプログラムをカスタマイズしているのだろうか。反対に、低業績企業は、人材育成の投資原資が限られているにも関わらず、目的が曖昧のままベンダーが薦めるプログラムをそのまま採用する一方で、成果には短視眼的に事業成果を求めてしまうのだろうか。
・日本でも似たような状況で、経営層から短期的成果を求められる割には、教育研修予算が毎年減らされ、自分の仕事は大手ベンダーとの価格交渉。予算さえ決めれば、中身はベンダーに丸投げして、総花的に長年同じプログラムを行っているようなことはないだろうか。業績好調の競合他社では、それなりの予算を確保し、目的を明確にして人材育成投資先を集中させ、人材開発部が主体になって、目的に応じて自社独自のプログラムをベンダーと協力しながら企画開発しているかもしれない? 

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○あなたの組織の「リーダーシップの質」は高いか? 

米国有数の人材育成コンサルティング会社DDIが実施した、企業のリーダーシップ開発に関する大規模なサーベイ「Global Leadership Forecast2011」の調査報告を紹介します。

■講演概要
・米国有数の人材開発コンサルティング会社DDI社のセッションでは、同社が実施した大規模調査「Global Leadership Forecast 2011」の結果の要約が紹介された。この調査の回答者数は約1万4000人(所在地74カ国にわたる約2700社に所属する約12500名のリーダーと約1900名のHR専門職)。
・今回の調査のテーマは、テクノロジーの進化や、新興国の経済発展など、急速に変化する経営環境に対応し、「リーダーシップ開発はどう革新されるべきか」というもの。
・本調査結果によると、“自社のリーダーシップの質が高い”と考えている組織の中で、「主要な経営指標(財務成果、顧客満足、生産性、サービスの質)において他社に勝る」と答えた組織は52%で、“リーダーシップの質が低い”と考えている組織の4倍であることがわかった。
・考察では、最も質の高いリーダーを擁する組織は、財務成果や顧客満足、製品やサービスの質、従業員のエンゲージメントといった経営指標において、競争相手に比べ、13倍もの成果を上げる、としている。
・リーダーシップの質が高い組織のうち、「従業員のリテンションについて他社に勝る」と考える組織は70%で、質の低い組織の3倍。「従業員のエンゲージメントが高い」とする組織は50%で、同じく質の低い組織の5倍にのぼる。さらに、「リーダーのパッションが他社よりも高い」と考える組織は53%で、同じく質の低い組織の8倍にあたる。
・1万2500人のリーダーのうち、自社のリーダーシップの質について、「際立って優れている」または「大変優れている」と回答したのは、38%のみ。1900人のHR専門職たちはもっと厳しく、同様の回答は26%。
・また、3~5年後に事業を担う次世代リーダー人材の量と質の充実度(ベンチ・ストレングス)について、「充実している」および「非常に充実している」と答えたHR専門職は、わずか18%だった。
・効果的なリーダーシップ開発プログラムを実施している組織のリーダーは、自身の組織におけるリーダーシップの質を高評価する傾向が高い。
・しかし、自身の組織におけるリーダーシップ開発の効果が「高い」と回答しているリーダーおよびHR専門職は、全体の3分の1にすぎず、現状のリーダーシップ開発の効果に対する満足度は、決して高くない。
・さらに本調査では、リーダーシップの質が高い組織は、財務成果や顧客満足、製品やサービスの質、従業員のエンゲージメントといった主要な経営指標において、多くの点で「競争相手に勝る」ことが明らかになった。
・一方で、自身の組織のリーダーシップの質と3-5年後に事業を担う次世代層については、満足のいくレベルに達していないという数字が出ている。
・DDI社では、企業のリーダーシップの質を高めるためには、1)リーダーシップ開発施策、2)タレントマネジメントの仕組み、3)組織のマネジメント文化、の三つの要素を相乗的に作用させることが必要となると主張し、関連する調査結果を示した。
・特に「組織のマネジメント文化」のあり方では、「経営の未来」で著名な経営学者、ゲイリー・ハメルとの共同研究による、組織のマネジメント文化の効果性を測る要素も紹介された。
・その要素ごとに、効果性の高い組織のマネジメント文化の状態を表現すると以下のようになる。
 -組織構造が、流動的で柔軟、機動的
 -管理プロセスは、競争上の優位性をベースにしている
 -改革派が権力を保持している
 -影響力は、「リーダーシップ力」「貢献」「成果」に基づいて生じる
 -戦略的で主要な意思決定について、オープンで活発な議論ができる
 -変革のチャンスは、リーダーだけでなく社員にも与えられている
 -バリューが組織で共有され、社員が意味を見出すものとなっている  -組織のゴールは、サステナビリティ(持続性)や社会性も意識している ・考察では、自由闊達(かったつ)で自律性の高い組織のマネジメント文化をつくることが、競争優位を促す、と締めくくった。

■エレクセの所感

・同調査によれば、リーダーシップ開発の効果への満足度は2005年以来横ばいで、残念ながら、リーダーシップ開発の質の進展は見られていない。これは、従来のリーダーシップ開発プログラムを実施し続けても、リーダーシップの質も、次世代リーダー人材の充実度(ベンチ・ストレングス)も、リーダーシップ開発の効果への満足度も向上しないことを暗示している。
・経営環境の変化とともに、求められるリーダーシップ能力が変わってきている。 したがって、リーダーシップ開発そのものの在り方・手法を大胆に改革しない限り、リーダーシップの質が改善されていくことはないだろう。
・「リーダーシップ開発は、断続的な“イベント”ではなく、連続した“旅”である」とよくいわれている。能力開発部門には、研修に代表される「リーダーシップ開発施策」に加えて、「タレントマネジメントの仕組み」の観点から、新たな仕事の経験や自分を見つめ直す機会を、登用や異動、キャリア構築を通じて意図的に用意することが求められている。 ・さらに、「組織のマネジメント文化」の開発では、組織構造や意思決定の仕組み、経営プロセスの改善といった、経営のイノベーションにも関わることになる。
・リーダーシップ開発は、すでに、経営層を巻き込み、全社で取り組む課題となっている。そのとき、能力開発部門には、人材育成の専門職としてだけでなく、人的視点から経営戦略を支える経営者のパートナーと、組織のチェンジ・エージェントとしての発想・行動が求められるだろう。
・経営環境の変化とともに、求められるリーダーシップ能力が変わってきている。 したがって、リーダーシップ開発そのものの在り方・手法を大胆に改革しない限り、リーダーシップの質が改善されていくことはないだろう。

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○リーダーシップ開発と脳科学の応用 

今年の国際会議で大盛況だったNeuroLeadership Groupの脳科学をテーマにしたシリーズセッションのうちのひとつを紹介します。

■講演概要

・講演者のNeuroLeadership Groupは、今年の国際会議で、NeuroLeadership (脳科学をリーダーシップ開発に応用した手法)をテーマに、本セッションを含めて5つのセッション(意思決定・問題解決、プレッシャー下の感情コントロール、他者との協働、変化への対応、脳科学を活用した組織運営)をシリーズで行っていた。
・ リーダーシップ開発に脳科学を応用するというアプローチの新しさからか、 各セッションは会場一杯の満員状態で、「変化への対応」を扱う本セッションも ほぼ満員だった。 ・変化は、たとえポジティブな効果を生むものでも、脳はそれに抵抗しようというネガティブな反応を示す傾向がある。
・くわえて、脳はポジティブな現象に比べてネガティブな現象により強く反応する。また、脳は、刺激が一定以上に達しないと反応しない。
・変化に対する脳の反応は、4つに分かれる。
 ① Expression (感情を表現する)
 ② Suppression (感情を抑えつける)
 ③ Emotional Labeling (感情を定義づけする)
 ④ Reappraisal (見方や認識を置き換える)

■エレクセの所感

・これまでの組織変革論(例:コッター)で述べられてきた内容を、脳科学の見地・調査から立証したというのが、本セッションの最大の売りではないか。現時点では、「変化に対する脳の反応を科学的に解明しました」という段階で、「どのように組織変革において脳科学を応用するか」という点は、あまり具体的に本セッションでは言及されていなかった。
・最近は、リーダーシップ開発の関心が、個人一人ひとりの内面に向けられる。傾向が強くなってきたが、ついに脳にまで及んだかという印象。
・参加者の一人が自身のリストラの経験を語り、その時に上司に言われた“If you can’t change the situation, you should change the way of thinking.” という話を紹介していた。この話は、本セッションで紹介されたReappraisal(変化を受け容れるため起きている現象の見方や認識を変える)という概念をうまく言い表していた。
本セッションに参加したわたしの疑問は、主に2つ①組織がリーダーシップ開発を促すため、個人の脳にまで働きかけることを是とするのか?(会場で疑問が提起されなかったのが不思議だった)②個人一人ひとりの脳内での反応内容が異なるという前提に立つと、組織全体に及ぶ組織変革の中で、外部から認識できない個人の脳内の反応に働きかけて、個人一人ひとりに変化を受け容れるように促すことは本当に可能なのか?

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○スタープレーヤーは努力を惜しまずに実践し続ける

米国のコンサルティング会社であるEXEMPLARY PERFORMANCE社のセッションから、ハイパフォーマーの特徴についての調査結果を紹介します。

■講演概要

・本セッションでは、ずば抜けた好成績を上げるスタープレーヤーの特徴について、講演者の経験と調査結果をもとに示している。
・セールス・エグゼクティブ協議会によると、トップ2割の営業マンは、ミドル6割に比べて、営業成績が6割上回る。トップチームは、平均的なチームに比べて、営業成績が180%上回る。
・ただ、優秀な人が壊れた仕組みの中にいると、大概壊れた仕組みが優秀な人を潰してしまう。したがって、個人的な側面だけでなく、働く環境や評価・報酬の仕組みといった組織面の整備も大切。
・スタープレーヤーの特徴は、主に以下の6つである。 
① 優れたメンタルモデル(考え方、認識の仕方)を持っている
② 目指す期待値やゴールが明確で、目標達成意欲が高い 
③ 努力を惜しまない 
④ 顧客中心の視点を持ち、問題解決志向 
⑤ 基礎を習得し実践している 
⑥ 自分が得意でない分野では他人の協力を得る

■エレクセの所感
・スタープレーヤーの6つの特徴の中身には意外感がない。どれも当たり前の内容だが、継続して実践するのはどれもむずかしいものばかり。
・顧客中心の視点で、目指すゴールが明確なので、顧客にとって価値が低い活動はできる限りしないという指摘には、納得。結局のところ、スターかどうかを判断するのは、顧客なのだから。
・努力の程度について、トップ音楽学校の卒業生についての調査結果が面白かった。在学 中に7400時間練習するとソロの演奏家になり5300時間練習するとオーケストラの演奏家になり、3400時間練習すると音楽の先生になるらしい。プロを目指す目安は、1万時間の練習だろうか。
・スタープレーヤーは持って生まれた資質より、恵まれた環境や仕組み、本人の努力が大切だという当たり前の結論になる。しかし、当たり前のことを実践し続けることはむずかしい。

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○組織学習の活用に大切な上司の行動

組織における学習やタレントマネジメントの効果測定のソフトウェアを提供する米国のコンサルティング会社 KnowledgeAdvisors社のセッション「Manager Engagement and Informal Learning measurement Approaches」(上司のエンゲージメントとインフォーマル学習の測定アプローチ)から、「組織学習の活用に大切な上司の行動」」について考えます。

■講演概要

研修の企画開発、運営、実施フォローを行うITシステムを提供しているベンダーが、上司による能力開発や組織学習へのエンゲージメントがどのような効果を生むかについて、定量データを含む調査結果を報告。
・組織学習の60%は、仕事で活かされていない。その理由は、「活用する機会がない」(52%)、「優先順位が低い」(17%)、「内容が実践的でない」(12%)、「活用を阻害される」(3%以下)、「その他」(27%)。
・本調査結果は、学習内容の職場での実践を本人だけに委ねるのではなく、職場の上司が学習内容を活用する機会を設けたり、学習が業務成果に繋がることを示したりすることが、職場での実践に繋がることを示唆している。
・職場の上司による支援には、学習前の段階で、①参加者の準備度の評価②学習および仕事の成果に対する期待の設定、があり、学習後の段階では、③学習内容の活用についての上司の直接関与、④設定した期待についてのフォローアップ、⑤リソースの提供がある。
・部下の組織学習を十分に支援している上司の割合は、「参加者の準備度の評価」(21%)、「学習および仕事の成果に対する期待の設定」(25%)、「学習内容の活用についての上司の直接関与」(52%)、「設定した期待についての期待のフォローアップ」(35%)、「リソースの提供」(25%)。

■エレクセの所感

・企業が行う教育研修の6割は活用されずにムダに終わっているという調査結果について、読者はどのような印象を持っただろうか?上司による適切な対応があれば、活用されていない学習機会の6割以上は業務で活用されるという今回の調査結果は、教育研修に対して職場の上司の関与が薄い企業にとっては、考えさせられる事実なのではないだろうか。
・組織学習が受講者の行動変容を促す要因として、「学習内容自体」は2割に過ぎず、「学習前の動機づけや目標設定」が4割、「学習後の職場での上司によるフォローや環境整備」が4割という別の調査結果もある。
・昨今の不況や企業の業績不振の中、教育研修について費用の削減や内容の見直しを迫られている人事部や人材開発部も多いのではないだろうか。教育研修の投資対効果を上げたいのであれば、人事部や人材開発部は、費用のカットだけでなく、研修受講者が学習内容を職場で活かすため、研修前と研修後に上司への働きかけを行い、学習機会が受講者の行動変容や組織成果につながるように促し、なけなしの研修費用がムダにならないように努めることも大切ではないだろうか。
・そして、上司を動かすには、人事による直接の働きかけとともに、組織学習に対する経営層の関与や支援がカギになる。最近もあるリーダーシップ研修で、急遽その会社の社長がテレビモニターを通じて研修会場にいる参加者への期待を生で話しかけることで、一気に参加者の参加意欲が高まる光景を目にした。組織学習に問題意識が高い社長の存在は、人事部や人材開発部にとってうらやましいかもしれない。一方で、事業戦略・組織課題と組織学習のつながりを深く考えずに、自分自身の好みを押し通したり、他社の動向に振り回されたりしている人事部や人材開発部には、いつ教育研修の大幅見直しを言い渡されるかもしれない怖い存在でもある。
・なけなしの研修予算をムダにしないためには、職場の上司の関与・支援、経営層や事業責任者による事業戦略や組織課題と組織学習とのつながりの明示がカギになりそうだ。人事部や人材開発部には、休む暇がないくらい現場と経営者に働きかけることが求められているのかもしれない。

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