ATD2014報告

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ATD国際会議

このページでは、弊社代表取締役 永禮弘之が日本支部の理事を務めるATDに関する記事を集めています

ATD(Association for Talent Development)とは?

ATD(旧称:ASTD)は、世界最大級の人材開発・組織開発の非営利団体です。米国に本部を置き、実務家、専門家、研究者など、全世界で4万人以上が在籍しています
【ATDの詳細こちら(ATD INTERNATIONAL NETWORK JAPANのホームページ)】

ATD国際会議とは?

ATD国際会議は、年一回、世界80カ国から1万人が参加し、4日間で300ものセッションが行われる人材開発、組織開発に関する世界最大のイベントです。
ここでは、現地で取材したリーダーシップ開発に関する新しいトレンドとそこで得た知見をピックアップして皆様にお届けします。 基調講演やリーダーシップ開発の”教祖”たちのセッションからは、「リーダーシップのあり方」についてのヒントを、グローバルの最新の人材開発ニーズのデータやトレーニングの専門家の意見からは「リーダーシップ開発手法の方向性、トレンド」を探ります。また、米国を中心とした企業の実践事例からは、リーダーシップ開発、組織開発実践のカギをひもときます

2014年度 開催日:2014年5月4日~7日  開催地:米国ワシントンD.C.
2013年度 開催日:2013年5月19日~22日 開催地:米国テキサス州ダラス
2012年度 開催日:2012年5月6日~9日   開催地:米国コロラド州デンバー
2011年度 開催日:2011年5月22日~26日 開催地:米国フロリダ州オーランド
2010年度 開催日:2010年5月16日~20日 開催地:米国イリノイ州シカゴ

2014年度 ATD国際会議 関連記事一覧


► 労政時報 「Jin-Jour」 寄稿
  2014年 ASTD ICEから読み取る人材開発の最新動向(全4回)

  • 人材開発・組織開発のプロフェッショナルが所属する 世界最大の非営利団体・米国人材開発機構(ASTD)が開催する年1回の国際会議で発表された最新の調査結果や事例を中心に最新動向を紹介
第1回 グローバル化の進展が人材開発の在り方を変えている(2014.9)
第2回 リーダーシップ開発の現在と将来を1万人規模の調査から探る(2014.9)
第3回 グローバルリーダーシップ開発はここ5年でどこまで進んだか(2014.10)
第4回 ≪完≫新しい学習文化の主役は誰なのか?(2014.11)

► 国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC) グローバルマネジャー 寄稿
  2014年「米国におけるグローバル人材開発最新事情」ASTD国際会議 大会レポート


► 弊社発行メールマガジン記事
  ASTD2014にみるリーダーシップ開発のWhat's New

  

○米国で最も影響力のある女性リーダーが“成功のカギ”を語る

■講演概要

・講演者のアリアナ・ハフィントンは、米国を中心に記事を配信する ハフィントン・ポスト・メディアグループの創設者で編集長。2009年に フォーブス誌で「メディア界で最も影響力のある女性」に選出された。
ハフィントン・ポストは、オバマ大統領をはじめとする政治家、有名人、 学者、政治評論家なども寄稿する注目のインターネット新聞である。 今回の基調講演では、お金や権力ではない成功の指標“幸福”に ついてパワフルに語った。 彼女が語る、人生における新たな成功の指標「幸福に生きる」ための4つの柱は以下の通りである。
・1つ目の柱「Well-being(健康である)」:成功するには時間を惜しんで  働く方がよいと信じ込む人は多いが、実際は睡眠を十分に取り、瞑想  して精神的な安定を保つ方が効率的に仕事に取り組めることが、  科学的に実証されている。
・2つ目の柱「Wisdom(知恵を持つ)」:世の中を理解するためには、 創造性や直感を養う必要がある。それには、デジタルの世界から 自分を切り離す時間が求められる。
・3つ目の柱「Wonder(好奇心を持つ)」:周囲や世界の神秘に目を 向けることで、自分の人生は自分のためだけではなく、より大きな 世界のためにあると思える。
・4つ目の柱「Giving(与える)」:人は、生まれながらに、与えることに 喜びを感じる。脳神経科学の研究でも、何かを与えることは、幸福 への近道だといわれている。
・彼女は、4つの柱における具体的な行動として、十分に睡眠を取る こと、ひとときでもスマートホンを遠ざけ、創造力を養うこと、マルチ タスクを控え周囲を見回す時間を作ること、より多く感謝し、他者を 称賛し、思いやりを持って生きること、を挙げていた。

■エレクセの所感

・米国メディア界を代表し、変化と共に生きるハフィントン氏の講演は、非常にパワフルながら、深い自己内省に満ちたものだった。
・彼女は経営者、リーダーとして日々ものすごい忙しさの中で生きており、そのことにただ疲れたり、疑問を持ったために“幸福”や“4つの柱”を持ち出しているわけではない。彼女は、経営者として自分を整える術を説いている。
・つまり、彼女は、経営者として適切な経営判断をするために、睡眠を十分に取って脳を活性化させる、情報収集よりも創造性や直感を鍛える 時間を取る、仕事に忙殺されずに視野を広げ、視座を高めて環境を見極める、独断的、自己中心的になることを避ける、ということを、経験を通じ て心得えたのだろう。
・私たちは、忙しいことが成功者の要件のようについ思ってしまうが、優れたリーダーは膨大な判断を求められる中、自分の思考を安定させる成功の カギを持っているのだ。

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○リーダーシップ開発の現在と将来を1万人規模の調査から探る

■講演概要

今回はグローバル規模のリーダーシップ開発の実態調査の結果を抜粋 して紹介する。この調査は、米国有数の人材開発コンサルティング会社 DDI社とコンファレンス・ボード(全米産業審議会)が共同で発表した 「Global Leadership Forecast 2014/2015」。世界48か国、2,000超の組織 に属する約13,000人のリーダーと1,500人の人事専門職を対象に実施 された。
【調査結果①:組織のリーダーシップの質、次世代リーダー人材の充実度】
・自身の組織のリーダーシップの質が高いと回答したリーダーは40%。
・次世代リーダー人材の量・質の充実度が高いと答えた人事専門職はわずか 15%であり、前回より3%落ちている。日本は両項目ともに低く横ばい。
・自社のリーダーシップ開発プログラムの質が、「際立って高い」「高い」と 回答したリーダーは37%で、過去7年間向上が見られない。

【調査結果②:リーダーシップ開発プログラムで取り組む内容】
・人事専門職が、この先3年間もリーダーの成功に欠かせないと考えるスキル は、「他者のコーチングと育成」「将来有望な人材の特定と育成」「変革の導入 とマネジメント」「ビジョン実現に向けた他者の意欲づけ」。
・「社員の創造性・革新性の醸成」「国や文化をまたがるリード」のスキルは、 3年前の調査でこの先最重要とされたが、研修プログラムではあまり取り組 まれていない。

【調査結果③:効果的なリーダーシップ開発手法】
・効果的なリーダーシップ開発手法のトップは「能力開発目的のアサイメント」 で、リーダーの70%が効果を認めている。
・研修の問題点として、「業務との関係性の低さ」「事業課題との関係性の 低さ」などが多く挙がった。
・一方、職場学習の問題点は、「事後の上司フィードバック不足」「学習成果 の実践機会の不足」

■エレクセの所感

・リーダーシップ開発を組織成果向上の重要な手段ととらえる企業は、 取り組みに多大なエネルギーを注ぎ込んでいる。例えば、IBMのリーダー シップ開発プログラムは、2011年の米国フォーチュン誌で最も成果の高い プログラムに選ばれた。
同社は当時リーダーシップ開発に参加者1人当り 年間30万ドル(約3千万円)を投じ、2万人(全社員の5%)以上のスタッフ が関連業務に従事していた。
・ASTD国際会議の発表では、リーダーシップの質、次世代リーダーの充実 度とも日本が調査国中最低レベルとのコメントがあった。日本は、社員1人 当りの育成投資がグローバル平均 の4分の1以下と格段に少ない。その上、リーダー研修と称し、コンプライアンスや人事評価など組織の管理統制に 必要な知識習得に優先投資しがちだ。
・個人や組織の力を上げるリーダーシップ開発への取り組みは疎かになっていないだろうか。組織業績へのインパクトが明確なリーダーシップ開発を 人材育成の核としなければ、日本企業とグローバル企業の組織力の差はますます広がってしまうのではないか。

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○デジタル世代の新しい学習スタイルが企業内学習を変える

■講演概要

・今年のASTD ICEでは、モバイル機器という学習ツールの導入、それを 使いこなすミレニアル世代が組織の中核となることにより、学習の“個人 化”がますます進む、という指摘があった。学習のテーマや時間、場所、 教材の選択は、ますます個人に委ねられるという。
・組織学習デザインの大家で、「e-ラーニング」という言葉の生みの親で あるエリオット・メイシー氏は、個人の学習スタイルに関する次のような データを示した。
-最近の学習スタイルは、ますます学習者主導になり、体系的で画一的 な学習は好まれない傾向にある。
-Web学習では、学習者はコンテンツに7分間くらいしか集中できず、 1時間のコンテンツであっても、すべてを見ていない。
-米国で普及している無料の大規模オンライン公開講座(MOOC ) の受講 者79,000人のうち、完遂者は5,000人(全体の6%)のみ。しかも、受講 者の成績の平均はCマイナス(中の下)で、学習到達度が高いとは言え なかった。
-1日あたりの学習時間は短縮傾向にある。1日間の集合研修は半日に、 半日の集合研修は、個人のWeb学習に変わり、Web学習は12分の ビデオクリップになっている。
・メイシー氏はこれらのデータを踏まえ、新しい学習デザインについて、 次のように示唆している。
-学習者は、与えられた学習内容のすべてを必要とせず、自分が知りたい ことだけがわかればよいと考えている。余分なことには、時間も手間も 極力費やさない傾向がある。
-例えば、参照が可能な情報はその場で書き留めない。後から自分で 確認すればよいので、参照先だけを教えてほしいと望んでいる。
-体系的な教材が提供されても、自分の目的に合わせて、自身の役に 立つ部分だけをバラバラに利用している。
-学習者が求めているのは、知識全体をカバーした体系的な教材ではない。 自身の学習目的にかない、忙しい中でも学習に関われて、記憶の必要が なく、短時間に行えて、個人が手元でいつでも利用できる教材である。

■エレクセの所感

・2013年のASTD ICEの基調講演では、新しい学習文化の主役と して、「起業家精神の学習者」が紹介された。「起業家精神の学習者」 とは、激しい変化に前向きに対応し、周囲の環境から自身に必要な ことを読み取り、あらゆる機会を学習の題材にして主体的に学ぶ人 たちであり、デジタル世代と重なる。
・学習スタイルの変化は、企業内学習のあり方をどう変えるのだろうか? 組織が決めたゴールに向けて、人材開発部門が用意した一律の 学習内容を効率的に社員に学ばせるこれまでのやり方は、社員が 自身の学習ニーズにもとづき、自発的に学習するやり方に移行する。 ソーシャルラーニングやインフォーマルラーニングといった学習者 主導の知識・経験の共有、相互学習の比重はおのずから高まるだろう。
・人材開発部門の役割は、教材作成やトレーニングの実施運営から、組織における効果的な学習のあり方の提示、社員の学習ゴールの見極め、ゴール到達に向けたコンテンツの選択など、学習支援の環境整備に移ると考えられる。 ・人材開発部門には、集合研修のような“イベント”的な学習機会だけに携わるのではなく、先見性と専門性を持ち、組織全体の学習活動の“プロセス”をデザインし、学習者の意向に沿って支援することが求められているのだ。


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○企業のグローバル人材開発はどこまで進んでいるか

■講演概要

・今回紹介するi4cp・AMAの調査では、2010年から継続して、年1回、世界 約50カ国、1,000社超を対象に大規模調査を行い、企業における「グロー バルリーダーシップ開発プログラム」の開発・実施の現状を考察している。
・2014年調査では、回答企業1,030社 のうち、グローバルリーダーシップ 開発プログラムを実施している企業は全体の44%であり、2010年の31% からは着実に伸びている。 ・2014年調査では、従業員1,000名以上の大企業642社の6割が体系的な グローバルリーダーシップ開発プログラムの実施が重要だと答えた。高業績 企業に限ればその割合は7割、グローバル企業では8割弱に上る。それ でも、実施企業の割合は全体の半分に至っていない。
・一方、プログラムの効果については、自社のプログラムが「非常に効果的」 「総じて効果的」と答えた企業の割合は、年々増加していたが、2014年は 21%に落ち込んだ。2012年には、51%の企業が自社プログラムを効果的と 回答していた。今またプログラム内容の見直しが求められているのかもしれ ない。
・プログラムで焦点を置く能力は、2010~2013年の4年間、「チェンジマネジ メント」「クリティカルシンキング&問題解決力」「影響力を与え協働する力」 「戦略開発力」「グローバル戦略実行力」といった、ほぼ同じ項目が上位を 占める。
・2014年の考察では、上記のようなグローバル共通のビジネススキル開発 に加え、地域ごとに異なるローカル視点をプログラムに盛り込むことを勧め ている。2014年調査では、「特定の市場の文化や慣習に対する知識」「特定 の市場における言語の習得、対話能力」「特定の市場の顧客に関する知識」 は、プログラムの効果性と相関があることが明らかになっている。

■エレクセの所感

・日本企業の海外売上・生産比率は上昇を続け、製造業では、8~9割の 企業が、中長期な海外事業展開を強化・拡大すると言われている 。一方、 海外事業の売上高、収益確保の道のりは険しい。特にアジア地域(ASEAN5、 中国、インド)では、他社との厳しい競合により、販売先の確保が困難に なっている。
・このような状況で、日本企業が現地市場開拓を強化するにあたっては、現地 市場をローカルの視点で捉えた柔軟な対応が必要となる。そのため、日本 本社中心に現地マネジメントを行うだけでなく、日本本社と海外拠点が連動 してマネジメントの現地化を進めることが求められるだろう。
・人材開発に関しては、例えば、グローバルIT企業のオラクル社では、世界 中の現場リーダーが共通に求められる能力を開発するコアプログラムを持つ 一方、その中のグローバルに関する要素は、世界各地域のメンバーから成る チームが内容を決めているそうだ。米国からの視点のみでは、世界各国で 活用するグローバルのプログラム開発は不可能、というのが同社のポリシー。 教材は英語で開発されるが、各地の言語で実施する。
・人材開発部門には、グローバル共通のコアプログラムの効果を高めること はもちろん、一般的な多文化理解や語学とは異なる、ローカル市場に密接 したプログラムを現地を巻き込んで開発、提供する支援が求められている。

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○「VUCA」は新たなリーダーシップ開発のキーワード

■講演概要

・ASTD ICEでは、2013年あたりから「グローバル人材開発」のセッションを 中心に、「VUCA」という新しいキーワードが盛んに聞かれる。「VUCA」とは、 もともとは「Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複 雑性)、Ambiguity(曖昧性)」を指す軍事用語だが、最近はグローバル化で 変化の激しい経営環境の代名詞となっている。 ・グローバルリーダーの能力に関して、1)変化の方向性や速さの見極め、 2)不確実性の中での意思決定とアクション、3)組織内外の複雑性に 対するかじ取り、4)予想外の事象や予測不可能な状況における組織 成果 の維持、がVUCA適応能力の指標として注目され始めている。
・米国DDIとコンファレンス・ボードが共同で行ったグローバルリーダー シップ開発調査の結果によると、25%の組織が自社のリーダーはVUCA 適応能力に優れていないと答えている。一方、非常に優れていると答えた 組織は18%だった。
・業績においてトップ20%の組織には、ボトム20%の組織に比べ、3倍もの VUCA適応能力を有するリーダーがいる。リーダーがVUCAに対する高い 適応能力を持つ組織は、低い組織と比べ、「リーダー候補者の質と量の 充実度」は3.5倍上回るそうだ。

■エレクセの所感

・ASTD ICE2014のメインテーマは「Change(変化)」。グローバル化の進展で 事業環境の変化が激しくなる中、「変化への適応や変化そのものの創造に 向け、人材開発や学習の在り方、人材開発部門の役割を再考しよう」という 主張が、会期を通じて何度も聞かれた。
・基調講演の前には、「家族以外はすべてを変えよう」を組織哲学とする韓国 サムスン社の人材開発トップのインタビュー動画が上映された。彼は「人材 開発部門の役割はチェンジリーダーを育てることだけでなく、自らが経営 トップの戦略パートナー、チェンジエージェントとして変革を先導することだ」 と語っていた。
・人材開発部門のメンバーには今後、専門分野の知識や経験だけでなく、 自社の事業への見識と現場の課題へ切り込む行動力が欠かせなくなる だろう。

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