ATD2013報告

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ATD国際会議

ATD(旧称:ASTD)国際会議は、年一回、世界80カ国から1万人が参加し、4日間で300ものセッションが行われる人材開発、組織開発に関する世界最大のイベントです
【ATDの詳細こちら(ATD INTERNATIONAL NETWORK JAPANのホームページ)】

ここでは、2013年に取材した、リーダーシップ開発に関する新しいトレンドとそこで得た知見をピックアップして皆様にお届けします

2013年度 開催日:2013年5月19日~22日 開催地:米国テキサス州ダラス

2013年度 ATD国際会議 関連記事一覧


► 国際ビジネスコミュニケーション協会 グローバルマネジャー 寄稿
  2013年「米国におけるグローバル人材開発最新事情」ASTD国際会議 大会レポート


► 弊社発行メールマガジン記事
  ASTD2013にみるリーダーシップ開発のWhat's New

  

○周囲の人々の能力を増幅させるリーダーの条件とは?

キーワード:消耗型リーダー(Diminisher)、増幅型リーダー(Multiplier)

■講演概要

・リザ・ワイズマンは、リーダーシップの研究開発を行っているザ・ワイズマン・グループのプレジデントで、今回の基調講演では、組織内の人的 資源をより深く活用できるリーダーの条件について話した。
・リーダーには、組織の知力や可能性を枯渇させてしまう「消耗型リーダー(Diminisher)」タイプもいれば、組織において他者の才能を開花させ 活用する「増幅型リーダー(Multiplier)」タイプもいる。
・「消耗型リーダー」は、本人そのものは秀才だが、周囲の人の創造力やポテンシャルに負のインパクトを与え、チーム全体の創造性や知力を 潰してしまう。一方、「増幅型リーダー」は、周囲の人に自分が秀才であると感じさせ、実際に賢くさせ、チーム全体の創造性や知力を増幅させる。
・部下の能力を半分にしてしまう「消耗型リーダー」のタイプは、次の5つ。心当たりはないだろうか?
①Empire Builder:人材を囲い込んで才能を活用せず、自分がいなければ何もできないような状況にしてしまう
②Tyrant:部下の不安を煽り、思考と能力を抑制するような環境をつくり出す
③Know-it-All:自分がすべてを知っていることを誇示するような指示をする
④Decision Maker:トップダウンの唐突な意思決定を行い、組織を混乱させる
⑤Micro Manager:自分が手を下して成果を上げようとする
・一方、部下の能力を2倍にできる「増幅型リーダー」の5つのタイプは、次の通りである。
①Talent Magnet:有能な人材を引きつけ、その能力を最大限に活用する
②Liberator:ベストな思考と仕事が求められる緊張感のある環境をつくり出す
③Challenger:部下がストレッチに能力発揮できる機会を明らかにする
④Debate Maker:チーム内での活発な議論を奨励し、健全な決定を導く
⑤Investor:部下に成果に対するオーナーシップを持たせ、自らはその成功支援に力を注ぐ
・ワイズマンはこの2つのタイプを対照的にとらえ、「増幅型リーダー」になるための秘訣を紹介している。
・リーダーには、組織の知力や可能性を枯渇させてしまう「消耗型リーダー(Diminisher)」タイプもいれば、組織において他者の才能を開花させ活用する「増幅型リーダー(Multiplier)」タイプもいる。
・「消耗型リーダー」は、本人そのものは秀才だが、周囲の人の創造力や ポテンシャルに負のインパクトを与え、チーム全体の創造性や知力を 潰してしまう。一方、「増幅型リーダー」は、周囲の人に自分が秀才であると 感じさせ、実際に賢くさせ、チーム全体の創造性や知力を増幅させる。
・部下の能力を半分にしてしまう「消耗型リーダー」の典型的人物像は、 ①Idea guy:新しいアイデアをどんどん出して、部下を振り回す ②Always-on:始終エネルギッシュにアイデアを出すため、部下を疲れさせる ③Rescuer:部下の失敗を避けるために、即座に、また、頻繁に途中から 仕事を取り上げて自分で完了させ、部下に自身を失わせる ④Pacesetter:仕事を自ら先導し、追いつこうとして部下を疲れさせる ⑤Rapid responder:自分でどんどん決めてしまい、部下が認識を合わせ   られなくなる ⑥Optimist:部下にとっての難題を楽勝扱いし、部下が難しいと感じて いることがわからない
・これら「消耗型リーダー」が「増幅型リーダー」になるための第一歩は、 ①自分が話すのではなく、質問形式で部下に話しかけ、部下の考えを聞く ②細かいアイデアは、自分の頭の中で吟味してまとめてから部下に話す ③部下の仕事を自分が終わらせるのではなく、部下が仕事を完遂できる  ように手助けする ④自分の職務範囲を広すぎるくらい広げて、自身の仕事のペースを緩める ⑤チーム内で討議して物事を決める ⑥チーム内に失敗を許容する余地をつくる

■エレクセの所感

・ワイズマン氏が語る「増幅型リーダー」の資質と、昨年の基調講演の 心理学者のハルバーソン氏が語った学習観が結び付く。
・人には、「人の能力や資質は生まれつきのもので基本的には変わらない というマインドセット(能力固定観)」を持つ人と、「人の能力や資質は学習や 自己変革で変わり続けるというマインドセット(能力変化観)」を持つ人が いるという。
・「消耗型リーダー」タイプは、部下の能力が今後開花するとは考えず、 有能な人材(=自分)が成果を出せばよいと考える「能力固定観」を持つ 一方、「増幅型リーダー」タイプは部下の知力の進化を信じ、高めようと する「能力変化観」を持つのではないか。
・ハルバーソン氏は、能力変化観が、成功するためのマインドセットだと  述べている。能力変化観を持つことの代表的な利点は、やっていることを  楽しめる(内発的動機づけの源泉)、プロセスを深く考える、より創造的な  発想ができる、辛抱強くあきらめない、優れた成果を発揮する、ことだそうだ。
・チームの知力や創造性を上げるためには、リーダーにも部下にも「能力 変化観」が求められている。「能力変化観」は、成果そのものではなく、 その人自身がどれだけ伸びたかを評価することで養えるのだそうだ。 リーダーには、チームや個人の業績はさることながら、チームのひとり ひとりが仕事の機会を通じて、どれだけ成長したかをフィードバックして みてほしい。
・ワイズマン氏の講演を聞いて、昨年の基調講演で、心理学者のハルバー ソン氏が語った学習観について思い出した。
・人には、「人の能力や資質は生まれつきのもので基本的には変わらない というマインドセット(能力固定観)」を持つ人と、「人の能力や資質は学習や 自己変革で変わり続けるというマインドセット(能力変化観)」を持つ人が いるという。
・「消耗型リーダー」タイプは、部下の能力が今後開花するとは考えず、 有能な人材(=自分)が成果を出せばよいと考える「能力固定観」を持つ 一方、「増幅型リーダー」タイプは部下の知力の進化を信じ、高めようと する「能力変化観」を持つのではないか。

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○急激な変化の波に乗り、変化を活かす“企業家精神の学習”


キーワード:Entrepreneurial Learner(起業家精神の学習者)

■講演概要

・講演者のジョン・シーリー・ブラウン教授は、組織開発、イノベーション、技術革新が専門分野で、デロイト先端研究所共同代表、南カルフォルニア大学客員研究員を務める。
・最近、The Entrepreneurial Learner: Thriving on Change in the 21st Centuryという本を出版。本セッションでは、本のタイトルになっているEntrepreneurial Learner(起業家精神の学習者)の概念を紹介。
・21世紀は、変化が乗数的に起こっていて、変化を活かすには大量の学習が求められる。急激な変化における学習は、起業家のやり方が適している。これが、Entrepreneurial Learner(起業家精神の学習者)という概念。
・起業家精神の学習者は、他人から教えられるのではなく、周りに起こっていることから自分で学ぶ。そして、変化を脅威ではなく、新しいスキルや 知識を得たり新しいことを見つけたりする探検ととらえて、変化から学んでいく。教育研究の大家であるモンテソーリやジョン・デューイは、自らの経験 の中から好奇心をもって自主的に学習する大切さを唱えた。
・特に、仲間から学ぶことが大切。仲間との協働と競争を通じて、さまざまなことを学ぶことができる。
・起業家精神の学習には、Questioning(問いかけ)、Connecting(交流、つながり)、Reflecting(内省)、Playing(遊び)の4つの要素がある。 ・4つ目の要素である「遊び」は、貴重な学習機会になる。グーグルの20%ルール(グーグルは、正式な業務以外に業務時間の20%を使うことを組織 運営上採用している)は、遊びを組織に取り入れた試み。
・21世紀に社会活動を始めたミレニアル世代は、所有したり管理したりすることではなく、創造したり共有したり協働したりすることを重んじる。ミレニアル 世代が中核となる21世紀は、組織ではなく個人が優先される。そのような社会に見合った組織環境を大半の企業は提供できていないため、CLOには、 個人の学習を促進するためのChief Organizational Architect(組織設計責任者)の役割が求められる。

■エレクセの所感

・最近、日本でも、職場での実践を通じた「経験学習」や、実際の企業課題に取り組む「アクションラーニング」を研修プログラムに取り入れ、講師ではなく ファシリテーターの役をトレーナーに求めることが定着しつつある。一方で、リーダーシップ研修を行おうとしているにもかかわらず、「講師の先生から 受講生をバシバシ鍛えてください」、「折角講師の先生に来てもらうので、先生の経験や他社の事例を教えてください」といった講師主導の研修を望む 事務局や経営者が存在するのも事実だ。未だに統一された定義が定まらず、状況や相手次第で千変万化する「リーダーシップ」を学ぶ場であるにも関わ らず、無意識のうちに、講師に正解を求める前者の学習観を採ってしまうのだろう。
・日本の学校では、先進的な一部の大学や先生は随分工夫をしてはいるが、未だに、教師が生徒に背を向けて黒板に書いたことを、生徒が黙々と板書 するという学習スタイルが、当たり前のように繰り返されている。一方で、NHKの番組「白熱教室」で、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が、 講義をほとんどしないで、ファシリテーターとして生徒たちに意見を交わさせながら、哲学という難しい科目の体系を教えている姿に、多くの日本人が驚き と感銘を受けたのではないか。
・多くの人は、幼い小学生の頃から教師から一方的に教わるという経験を繰り返す中で、前者の学習観が無意識のうちに刷り込まれてしまっているのだろう。 これも「経験学習」の効果なのかもしれない。

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○リーダーシップの大家たちが語るグローバルリーダー育成

キーワード:企業業績を高めるグローバルリーダーの育成

■講演概要

AMA(アメリカ経営者協会)の最新調査「Leading in a Worldwide Market」の報告に関し、AMAのCEOをはじめ、調査に協力したコンサルティング会社のトップ、ケン・ブランチャード(状況適応型リーダーシップやサーバント型リーダーシップを唱えるリーダーシップ分野の重鎮)、マーシャル・ゴールドスミス(GEの前CEO、ジャック・ウェルチの元コーチ)、スティーブン・コビィー(7つの習慣で著名なフランクリン・コビィーの息子)といった著名コンサルタントが勢揃いした。

<調査分析の要旨>
・本調査は、AMAが、約2000名の経営者・マネジャー、コンサルタント、トレーナーを対象に、全世界で行ったもの。北米が全体の7割、社員1千名以上の大企業が全体の5割超、グローバル展開をする企業が全体の6割超を占める。
・本調査では、主に、グローバルリーダーを巡る環境変化要因、グローバルリーダーの評価基準などを調査した上で、グローバルリーダーを育成、活用するための提言を整理している。
・本調査で、判明したのは下記の事項である。
①グローバルリーダーの成功に影響を与える環境変化要因は、顧客志向(63%)、商品・サービスの質(42%)、イノベーションのニーズ(38%)、人材リテンション(38%)、業務効率(36%)。
②グローバルリーダーの役割を果たすための要件は、リーダーシップ行動(65%)、国際経験(16%)、曖昧さへの適応(9%)、その他(10%)。
③求められるリーダーシップ行動に挙げられたのは、主に、コミュニケーション、戦略構築、創造性やイノベーションの促進、リーダーの育成、組織成果の実現。
④グローバルリーダー育成の取り組みの中で注力するのは、文化の違いの認識(54%)、コーチング(41%)、EQ(39%)、創造性&イノベーション(39%)、遠隔地に対するリーダーシップ発揮(36%)。

・調査結果をもとに、本セッションでは下記の3つを提言している。
①グローバルリーダーの育成を、人事部門だけに任せず、企業業績を高めるための取り組みとして、取り組みの優先度を上げる。
②自社で求められるグローバルリーダーのコンピテンシーを明らかにし開発する。特に、文化や価値観が多様なグローバル環境では、文化の違いを認識した上で、相互に尊重するための感情の認知・調整やコーチングのスキルが重んじられる。また、ダイバーシティを活かすことができるようになるには相応の時間がかかるため、キャリアの早い段階からグローバル経験を積ませることが求められる。
③画一的でない、自社に合わせたプログラムを導入し、エンゲージメント向上やダイバーシティへの適応といった他の全社的な取り組みとの連携、連動を図る。

■エレクセの所感

・本セッションだけでなく、他のセッション(IBMのグローバルリーダーシップ開発事例の紹介)でも、グローバルリーダーシップ開発の取り組みを、一時的なイベントにせず、組織全体のプロセスに組み込むべきだという主張がされていた。そこで、リーダーシップ開発をバラバラのイベントの集まりではなく、一貫した組織プロセスとするには、人事・人材開発部門だけではなく、経営層や現場ライン部門との協働がカギとなるだろう。
・以前(2011年)のセッションで、企業研修全体の6割は、実務で活用されていないというデータが紹介されていた。一方で、研修参加者の上司が、職場で学習内容の実践に理解、賛同を示すことで、活用されていない研修の6割は、活用されるようになるという調査結果も示されていた。また、AMAの他の調査では、経営層の関与が、グローバルリーダーシップ開発プログラムを組織成果につなげるには課題だという指摘もあった。
・昨今、日本の大企業、とくにメーカーを中心に、グローバルリーダー育成が喫緊の課題として挙げられ、各社の取り組みが本格化している。人事・人材開発部門が経営層や事業部門と協働していくには、リーダーシップ開発プログラムを企画運営するに当たり、グローバル展開の最前線で活躍するリーダーにはどのような役割や成果が求められているのかについて、経営層や事業部門との間できちんと協議することが欠かせないのではないか。
・経営層からの号令で、人事・人材開発部門主導でグローバルリーダー育成プログラムを急いで進めているが、グローバル展開を支えるリーダーが本当に育っているのか、心許ないという懸念の声が、経営層、ライン部門、人事・人材開発部門全般から聞こえてくる。そのような状況においては、他社と横並びで、英語教育や異文化コミュニケーション、MBA教育の導入を急ぐのではなく、まずは、自社の「グローバルリーダー」とはどのような役割を期待され(Why)、どのような組織成果を上げることを求められるのか(What)、といった「グローバルリーダー」の定義をはっきりさせることが先決だろう。
・目指すゴールがはっきりせず、海外勤務をするならばまずは語学だけでも身につけてもらわなければという安易な発想では、経営層やライン部門と協働して、グローバルリーダーシップ開発を一時的なイベントではなく、組織全体のプロセスにし、関係者全員のスポンサーシップやコミットメントを引き出すことは難しいのではないだろうか。

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○米国でもホットな「女性リーダー育成の課題」

キーワード:リーダーシップコンピテンシーの男女比較

■講演概要

・北米では、リーダーの階層が上がるごとに女性の割合が減っている。入職時に47%を占めていた女性のうち、CEOになったのは2%のみ。この10年間、上位階層の女性の割合は変化していない。これは、本来、女性が持つリーダーシップ力が足りないことに起因するのだろうか?
・米国の著名なリーダーシップ開発コンサルタントであり、ASTD国際会議の常連スピーカーであるジャック・ゼンガー氏が、米国における男性と女性のリーダーシップ力の比較に関する興味深い調査データを紹介した。今回はその調査の内容を紹介する。
・この調査では、リーダーシップ開発に熱心で、業績の優れた企業の7280人(うち男性64%、回答者の64%が米国)のリーダーを対象に、360度評価によるリーダーシップ・アセスメントを実施し、男女別に結果をまとめた。

・本調査で、判明したのは下記の事項である。

①女性の評価スコア(53.3)が男性のスコア(48.9)を上回り、有意差はなかったものの「女性の方が男性よりリーダーシップの効果が高い」という結果になった。
②役職別に見ると、中間管理職以上で女性の方が評価スコアが高く、役職が上位になるほど男女の差が開いている。
③リーダーシップ力の評価に関しては、評価項目となった16のリーダーシップ・コンピテンシーのうち、12のコンピテンシーで、女性が男性を上回った。
④これまで認識されていたような「周囲の人の能力を開発する」「人間関係を築く」といった元来女性の強みである対人関係のコンピテンシーや、「誠実で正直である」「自己開発に努める」といった縁の下の力持ち的なコンピテンシーだけがもはや女性リーダーの強みではない。
⑤従来男性リーダーの強みと思われてきた「指導力を発揮する」「ストレッチ目標を設定する」「結果を重視する」についても、男性よりも女性の評価が高い。
⑥所属部門ごとに見ても、おしなべて女性の方がスコアが高い。女性の方が低いのは、顧客サービス、事務、施設メンテナンス。顧客サービスや事務部門は女性がリーダーになりやすい部門と認識されていたが、どうもそうではないらしい。
⑦評価スコアの下位10%に入る割合は、男性が10.7%で女性は8.7%。一方、上位10%に入る割合は、男性は9.2%で、女性は11.5%である。

出典:「A Study in Leadership:Women do it Better than Men」
(Zenger/Folkman、2012)

■エレクセの所感

・日本でも、2015年までに、組織における課長職以上の女性リーダーを10%にするという目標を掲げ、大企業中心に、女性リーダー育成が人材育成の重要課題となっている。
・女性リーダー育成のハードルとして認識されているのが、能力よりも女性自身の意識と言われている。女性は、男性に比べ、新たな難易度の高い仕事へのチャレンジを避ける傾向にあるという。
・この認識について、フェイスブックのCOOのシェリル・サンドバーク氏が、著書や講演で、「女性は出世するほどに男性からも女性からも好感度が下がり、社会的に成功することが必ずしもプラスに働かないのでチャレンジに消極的になってしまう」と述べ、注目を集めている。
・セッションの会場に集まった多くの女性参加者からも同様の声が上がった。多くの人が男女の能力差はなく、女性も優れたリーダーになれる、といくら一般的に頭で考えていても、実際に昇進した自分たちには批判的な眼を向け、それに精神的に参ってしまう、というものだ。
・女性の意識啓蒙を進めるにあたり、男性目線で培われた組織の枠組みに違和感を覚える女性リーダー候補たちを、「覚悟がない」「消極的だ」で片付けてよいものだろうか。ただひたすら意欲をかきたてるだけでなく、彼女たちに腹をすえて実力を発揮してもらうために、まずは本音を聞いてみるべきではないだろうか。

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○米国でNo.1にランク付けされたリーダーシップ開発プログラム

キーワード:リーダーがリーダーを育てる文化

■講演概要

・このセッションでは、IBMがグローバルで展開しているリーダーシップ開発の焦点、プログラム内容、考え方について、プログラム責任者の一人である講演者が具体的に説明した上で、IBM以外の人にとっての示唆も示していた。
・IBMのリーダーシップ開発プログラムは、米国フォーチュン誌で、2011年、成果を上げているプログラムとしてNo.1にランク付けされた。具体的には、2億ドル(約200億円)の採用費を減らし、トレーニング時間を45%削減している。一方で、リーダーシップ開発費には、年間参加者一人当たり300,000ドル(約3千万円)を投入し、2万人以上(全社員の5%以上)のスタッフがリーダーシップ開発業務に従事している。

・印象に残ったプログラムの特徴は、下記の通り。
(1)プログラムの大半は内製され、参加者の2つ上のポジションの上司が講師を務める。IBMがフォーカスするリーダーシップ・コンピテンシーは9つあるが、最重要なのは、他のIBMerを支援し育てること。リーダーがリーダーを育てる文化が大切だと考えている。
・(2)リーダーシップ開発にこれだけ力を入れるのは、IBMでは、リーダーシップを発揮するのは、全員が果たすべき当然の責任であり、与えられた任務ではないと考えているため。
・(3)リーダーシップ開発プログラムには、集合研修だけでなく、バーチャルトレーニング、グローバル学習コミュニティの設置・活用、新興国での社会貢献活動、様々なアセスメントツールの導入など、多彩な手段が用いられ、定期的に使用するツールの利用頻度をモニタリングしている。
・(4)アセスメントでは、リーダーシップ・コンピテンシーだけでなく、リーダーにとって望ましい意識や行動を損なう要因を認識するDerailment Factors Assessment(阻害要因アセスメント)も取り入れている。

■エレクセの所感

・IBMでは、組織全体においてグローバル規模で、多大なエネルギー(2万名のスタッフ!)と投資(対象者1名当たり3千万円!)をリーダーシップ開発に投じており、その根底にある考え方は、「リーダーシップを発揮するのは、全員が果たすべき当然の責任であり、与えられた任務ではない」と、講演者が訴えていたのが印象的だった。昨年のASTD国際会議のセッションで、IBMがその後買収したKeneXa(ケネクサ社)が、エンゲージメント&組織のリーダーシップ力が企業業績(1株当たり利益など)との間で相関関係があることを、調査結果をもとに指摘していた。組織業績を高める手段として、組織全体でリーダーシップ開発に注力するという、IBMのコミットメントの高さを感じたセッションだった。
・翻って、大半の日本企業は、組織のリーダーに対して、コンプライアンスや人事考課といった、組織を管理統制するための研修を行っているが、「人が大事」や「人づくり」といったスローガンを掲げながら、実際に個人や組織の力を上げるための取り組みに対し、本当に力を注いでいると言えるだろうか。
リーダーシップを高めるのではなく、管理統制をするための手法の習得に大半のエネルギーと研修予算を費やしているならば、海外のグローバル企業と日本企業の間で、今後ますます組織力の格差が広がり、企業業績がじわじわ離されてしまうのではないかという不安がよぎった。
・日本企業全体の年間教育研修・訓練費は、4000~5000億円と推定されているが、ASTDの調査によると、アメリカでは10兆円を超える。算定手法が同じではないので、厳密な比較は難しいが、アメリカと日本のGDPの格差が20倍まで開いていないことを鑑みると、アメリカ企業は、全体として、日本企業に比べ、人材育成投資に積極的であることは確かだろう。
・加えて、日本企業は、少ない教育研修予算の大半を、組織業績への影響が最も少ない新卒社員の導入教育に費やす慣行を、そろそろ見直すべきではないだろうか。企業業績へのインパクトが一番大きいリーダーシップ開発を、企業内人材育成の取り組みの核にすえ、基本的なビジネススキルや知識を習得するためのプログラムは、企業としての取り組みの中で優先度を落とすことが求められるのではないだろうか。

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○組織業績を高めるためのリーダーシップ開発、3つのカギ!

キーワード:組織文化、ビジョン、組織能力

■講演概要

・HPI(組織業績向上を目指した人材開発)理論に基づくリーダーシップ開発の枠組み、成功のカギについて、HPI手法の実践で経験豊富なコンサルタントが説明した。
・組織業績を高めるためのリーダーシップ開発では、失敗を許容しリーダーが安心してリスクを取ることができる組織文化、目指すビジネス成果に焦点を定めるビジョン、現実の課題を解決するための組織能力の3つが欠かせない。
・1つ目の組織文化は、リーダーの行動に直接影響を与えることで、組織業績に影響を与える。成果を高めようとする過程で起こる失敗を許容する文化が大切。
・2つ目のビジョンは、リーダーシップ開発を通じて目指すビジネス成果を定める起点となる。リーダーシップ開発は、個人のコンピテンシーを高めるために行うのではなく、組織が目指すビジネス成果を上げるために行うものであり、リーダーシップ開発を通じたビジネス上の達成要件を定めることが重要。
・3つ目の組織能力は、主に、①リーダーの能力、②人材開発、③組織の方向性、④エンゲージメント、⑤結果責任を定める役割責任、から成る。
・組織業績向上を目指すリーダーシップ開発は、短距離走ではなく、マラソンである。一過性ではなく、継続した体系的アプローチが求められる。具体的には、4つのフェーズから成る ①Define(定義する):リーダーシップ開発のゴールは、能力開発ではなく、ビジネス成果を上げることなので、リーダーの期待役割に応じて、求めるビジネス成果を5-9つくらい定める。
②Connect(関係性を分析する):組織文化の特徴をアセスメントし、ビジネス成果への影響を分析する。
③Arm(武器を与える):リーダーに対して、的確な問いかけをする能力を高める。
④Measure(効果を測る):リーダーシップ開発を通じたビジネス成果への影響を測り、継続してモニタリングする。

■エレクセの所感

・HPI理論の具体的手法について、コンピテンシーに基づくリーダーシップ開発との違いを取り上げて、分かりやすく説明しているセッションだった。
・リーダーシップ開発は、①能力開発が目的ではなく、組織が目指すビジネス成果を高めること、②リーダーシップ開発プログラムを始める時点で、目指すビジネス成果を明確にすること、といったHPIの核となる考え方を繰り返し強調していた。これは、世の中に、コンピテンシーを高めるためのリーダーシップ開発の取り組みが多いことへの問題提起なのだろう。
・「既にコンピテンシーをもとにリーダーシップ開発を行っている場合、どのように対応すればいいのか」という会場からの質問に対して、求めるビジネス成果を明らかにした後、各ビジネス成果を軸に、それに関連するコンピテンシーを束ねるという解決策を提示していた。
・「人間力」といった曖昧な概念を掲げて、経営者の思い入れや価値観を根づかせるための研修をリーダーシップ開発の一環として行っている日本企業にとっては、人材開発はあくまでも組織成果を高めるための手段と割り切るHPIの考え方には違和感を感じることがあるかもしれない。リーダーにどのような行動を求めるか、組織の状態がどのようになってほしいか、といった具体的な達成要件を定めて人材開発を行うHPIの考え方は、会社=利益を上げるためのビークル(機械や乗り物)ととらえるアングロサクソン型組織論が根底にあるからだろうか。

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/> ・ワイズマンはこの2つのタイプを対照的にとらえ、「増幅型リーダー」になるための秘訣を紹介している。
・リーダーには、組織の知力や可能性を枯渇させてしまう「消耗型リーダー(Diminisher)」タイプもいれば、組織において他者の才能を開花させ活用する「増幅型リーダー(Multiplier)」タイプもいる。
・「消耗型リーダー」は、本人そのものは秀才だが、周囲の人の創造力や ポテンシャルに負のインパクトを与え、チーム全体の創造性や知力を 潰してしまう。一方、「増幅型リーダー」は、周囲の人に自分が秀才であると 感じさせ、実際に賢くさせ、チーム全体の創造性や知力を増幅させる。
・部下の能力を半分にしてしまう「消耗型リーダー」の典型的人物像は、 ①Idea guy:新しいアイデアをどんどん出して、部下を振り回す ②Always-on:始終エネルギッシュにアイデアを出すため、部下を疲れさせる ③Rescuer:部下の失敗を避けるために、即座に、また、頻繁に途中から 仕事を取り上げて自分で完了させ、部下に自身を失わせる ④Pacesetter:仕事を自ら先導し、追いつこうとして部下を疲れさせる ⑤Rapid responder:自分でどんどん決めてしまい、部下が認識を合わせ   られなくなる ⑥Optimist:部下にとっての難題を楽勝扱いし、部下が難しいと感じて いることがわからない
・これら「消耗型リーダー」が「増幅型リーダー」になるための第一歩は、 ①自分が話すのではなく、質問形式で部下に話しかけ、部下の考えを聞く ②細かいアイデアは、自分の頭の中で吟味してまとめてから部下に話す ③部下の仕事を自分が終わらせるのではなく、部下が仕事を完遂できる  ように手助けする ④自分の職務範囲を広すぎるくらい広げて、自身の仕事のペースを緩める ⑤チーム内で討議して物事を決める ⑥チーム内に失敗を許容する余地をつくる

■エレクセの所感

・ワイズマン氏が語る「増幅型リーダー」の資質と、昨年の基調講演の 心理学者のハルバーソン氏が語った学習観が結び付く。
・人には、「人の能力や資質は生まれつきのもので基本的には変わらない というマインドセット(能力固定観)」を持つ人と、「人の能力や資質は学習や 自己変革で変わり続けるというマインドセット(能力変化観)」を持つ人が いるという。
・「消耗型リーダー」タイプは、部下の能力が今後開花するとは考えず、 有能な人材(=自分)が成果を出せばよいと考える「能力固定観」を持つ 一方、「増幅型リーダー」タイプは部下の知力の進化を信じ、高めようと する「能力変化観」を持つのではないか。
・ハルバーソン氏は、能力変化観が、成功するためのマインドセットだと  述べている。能力変化観を持つことの代表的な利点は、やっていることを  楽しめる(内発的動機づけの源泉)、プロセスを深く考える、より創造的な  発想ができる、辛抱強くあきらめない、優れた成果を発揮する、ことだそうだ。
・チームの知力や創造性を上げるためには、リーダーにも部下にも「能力 変化観」が求められている。「能力変化観」は、成果そのものではなく、 その人自身がどれだけ伸びたかを評価することで養えるのだそうだ。 リーダーには、チームや個人の業績はさることながら、チームのひとり ひとりが仕事の機会を通じて、どれだけ成長したかをフィードバックして みてほしい。
・ワイズマン氏の講演を聞いて、昨年の基調講演で、心理学者のハルバー ソン氏が語った学習観について思い出した。
・人には、「人の能力や資質は生まれつきのもので基本的には変わらない というマインドセット(能力固定観)」を持つ人と、「人の能力や資質は学習や 自己変革で変わり続けるというマインドセット(能力変化観)」を持つ人が いるという。
・「消耗型リーダー」タイプは、部下の能力が今後開花するとは考えず、 有能な人材(=自分)が成果を出せばよいと考える「能力固定観」を持つ 一方、「増幅型リーダー」タイプは部下の知力の進化を信じ、高めようと する「能力変化観」を持つのではないか。

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○急激な変化の波に乗り、変化を活かす“企業家精神の学習”


キーワード:Entrepreneurial Learner(起業家精神の学習者)

■講演概要

・講演者のジョン・シーリー・ブラウン教授は、組織開発、イノベーション、技術革新が専門分野で、デロイト先端研究所共同代表、南カルフォルニア大学客員研究員を務める。
・最近、The Entrepreneurial Learner: Thriving on Change in the 21st Centuryという本を出版。本セッションでは、本のタイトルになっているEntrepreneurial Learner(起業家精神の学習者)の概念を紹介。
・21世紀は、変化が乗数的に起こっていて、変化を活かすには大量の学習が求められる。急激な変化における学習は、起業家のやり方が適している。これが、Entrepreneurial Learner(起業家精神の学習者)という概念。
・起業家精神の学習者は、他人から教えられるのではなく、周りに起こっていることから自分で学ぶ。そして、変化を脅威ではなく、新しいスキルや 知識を得たり新しいことを見つけたりする探検ととらえて、変化から学んでいく。教育研究の大家であるモンテソーリやジョン・デューイは、自らの経験 の中から好奇心をもって自主的に学習する大切さを唱えた。
・特に、仲間から学ぶことが大切。仲間との協働と競争を通じて、さまざまなことを学ぶことができる。
・起業家精神の学習には、Questioning(問いかけ)、Connecting(交流、つながり)、Reflecting(内省)、Playing(遊び)の4つの要素がある。 ・4つ目の要素である「遊び」は、貴重な学習機会になる。グーグルの20%ルール(グーグルは、正式な業務以外に業務時間の20%を使うことを組織 運営上採用している)は、遊びを組織に取り入れた試み。
・21世紀に社会活動を始めたミレニアル世代は、所有したり管理したりすることではなく、創造したり共有したり協働したりすることを重んじる。ミレニアル 世代が中核となる21世紀は、組織ではなく個人が優先される。そのような社会に見合った組織環境を大半の企業は提供できていないため、CLOには、 個人の学習を促進するためのChief Organizational Architect(組織設計責任者)の役割が求められる。

■エレクセの所感

・最近、日本でも、職場での実践を通じた「経験学習」や、実際の企業課題に取り組む「アクションラーニング」を研修プログラムに取り入れ、講師ではなく ファシリテーターの役をトレーナーに求めることが定着しつつある。一方で、リーダーシップ研修を行おうとしているにもかかわらず、「講師の先生から 受講生をバシバシ鍛えてください」、「折角講師の先生に来てもらうので、先生の経験や他社の事例を教えてください」といった講師主導の研修を望む 事務局や経営者が存在するのも事実だ。未だに統一された定義が定まらず、状況や相手次第で千変万化する「リーダーシップ」を学ぶ場であるにも関わ らず、無意識のうちに、講師に正解を求める前者の学習観を採ってしまうのだろう。
・日本の学校では、先進的な一部の大学や先生は随分工夫をしてはいるが、未だに、教師が生徒に背を向けて黒板に書いたことを、生徒が黙々と板書 するという学習スタイルが、当たり前のように繰り返されている。一方で、NHKの番組「白熱教室」で、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が、 講義をほとんどしないで、ファシリテーターとして生徒たちに意見を交わさせながら、哲学という難しい科目の体系を教えている姿に、多くの日本人が驚き と感銘を受けたのではないか。
・多くの人は、幼い小学生の頃から教師から一方的に教わるという経験を繰り返す中で、前者の学習観が無意識のうちに刷り込まれてしまっているのだろう。 これも「経験学習」の効果なのかもしれない。

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○リーダーシップの大家たちが語るグローバルリーダー育成

キーワード:企業業績を高めるグローバルリーダーの育成

■講演概要

AMA(アメリカ経営者協会)の最新調査「Leading in a Worldwide Market」の報告に関し、AMAのCEOをはじめ、調査に協力したコンサルティング会社のトップ、ケン・ブランチャード(状況適応型リーダーシップやサーバント型リーダーシップを唱えるリーダーシップ分野の重鎮)、マーシャル・ゴールドスミス(GEの前CEO、ジャック・ウェルチの元コーチ)、スティーブン・コビィー(7つの習慣で著名なフランクリン・コビィーの息子)といった著名コンサルタントが勢揃いした。

<調査分析の要旨>
・本調査は、AMAが、約2000名の経営者・マネジャー、コンサルタント、トレーナーを対象に、全世界で行ったもの。北米が全体の7割、社員1千名以上の大企業が全体の5割超、グローバル展開をする企業が全体の6割超を占める。
・本調査では、主に、グローバルリーダーを巡る環境変化要因、グローバルリーダーの評価基準などを調査した上で、グローバルリーダーを育成、活用するための提言を整理している。
・本調査で、判明したのは下記の事項である。
①グローバルリーダーの成功に影響を与える環境変化要因は、顧客志向(63%)、商品・サービスの質(42%)、イノベーションのニーズ(38%)、人材リテンション(38%)、業務効率(36%)。
②グローバルリーダーの役割を果たすための要件は、リーダーシップ行動(65%)、国際経験(16%)、曖昧さへの適応(9%)、その他(10%)。
③求められるリーダーシップ行動に挙げられたのは、主に、コミュニケーション、戦略構築、創造性やイノベーションの促進、リーダーの育成、組織成果の実現。
④グローバルリーダー育成の取り組みの中で注力するのは、文化の違いの認識(54%)、コーチング(41%)、EQ(39%)、創造性&イノベーション(39%)、遠隔地に対するリーダーシップ発揮(36%)。

・調査結果をもとに、本セッションでは下記の3つを提言している。
①グローバルリーダーの育成を、人事部門だけに任せず、企業業績を高めるための取り組みとして、取り組みの優先度を上げる。
②自社で求められるグローバルリーダーのコンピテンシーを明らかにし開発する。特に、文化や価値観が多様なグローバル環境では、文化の違いを認識した上で、相互に尊重するための感情の認知・調整やコーチングのスキルが重んじられる。また、ダイバーシティを活かすことができるようになるには相応の時間がかかるため、キャリアの早い段階からグローバル経験を積ませることが求められる。
③画一的でない、自社に合わせたプログラムを導入し、エンゲージメント向上やダイバーシティへの適応といった他の全社的な取り組みとの連携、連動を図る。

■エレクセの所感

・本セッションだけでなく、他のセッション(IBMのグローバルリーダーシップ開発事例の紹介)でも、グローバルリーダーシップ開発の取り組みを、一時的なイベントにせず、組織全体のプロセスに組み込むべきだという主張がされていた。そこで、リーダーシップ開発をバラバラのイベントの集まりではなく、一貫した組織プロセスとするには、人事・人材開発部門だけではなく、経営層や現場ライン部門との協働がカギとなるだろう。
・以前(2011年)のセッションで、企業研修全体の6割は、実務で活用されていないというデータが紹介されていた。一方で、研修参加者の上司が、職場で学習内容の実践に理解、賛同を示すことで、活用されていない研修の6割は、活用されるようになるという調査結果も示されていた。また、AMAの他の調査では、経営層の関与が、グローバルリーダーシップ開発プログラムを組織成果につなげるには課題だという指摘もあった。
・昨今、日本の大企業、とくにメーカーを中心に、グローバルリーダー育成が喫緊の課題として挙げられ、各社の取り組みが本格化している。人事・人材開発部門が経営層や事業部門と協働していくには、リーダーシップ開発プログラムを企画運営するに当たり、グローバル展開の最前線で活躍するリーダーにはどのような役割や成果が求められているのかについて、経営層や事業部門との間できちんと協議することが欠かせないのではないか。
・経営層からの号令で、人事・人材開発部門主導でグローバルリーダー育成プログラムを急いで進めているが、グローバル展開を支えるリーダーが本当に育っているのか、心許ないという懸念の声が、経営層、ライン部門、人事・人材開発部門全般から聞こえてくる。そのような状況においては、他社と横並びで、英語教育や異文化コミュニケーション、MBA教育の導入を急ぐのではなく、まずは、自社の「グローバルリーダー」とはどのような役割を期待され(Why)、どのような組織成果を上げることを求められるのか(What)、といった「グローバルリーダー」の定義をはっきりさせることが先決だろう。
・目指すゴールがはっきりせず、海外勤務をするならばまずは語学だけでも身につけてもらわなければという安易な発想では、経営層やライン部門と協働して、グローバルリーダーシップ開発を一時的なイベントではなく、組織全体のプロセスにし、関係者全員のスポンサーシップやコミットメントを引き出すことは難しいのではないだろうか。

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○米国でもホットな「女性リーダー育成の課題」

キーワード:リーダーシップコンピテンシーの男女比較

■講演概要

・北米では、リーダーの階層が上がるごとに女性の割合が減っている。入職時に47%を占めていた女性のうち、CEOになったのは2%のみ。この10年間、上位階層の女性の割合は変化していない。これは、本来、女性が持つリーダーシップ力が足りないことに起因するのだろうか?
・米国の著名なリーダーシップ開発コンサルタントであり、ASTD国際会議の常連スピーカーであるジャック・ゼンガー氏が、米国における男性と女性のリーダーシップ力の比較に関する興味深い調査データを紹介した。今回はその調査の内容を紹介する。
・この調査では、リーダーシップ開発に熱心で、業績の優れた企業の7280人(うち男性64%、回答者の64%が米国)のリーダーを対象に、360度評価によるリーダーシップ・アセスメントを実施し、男女別に結果をまとめた。

・本調査で、判明したのは下記の事項である。

①女性の評価スコア(53.3)が男性のスコア(48.9)を上回り、有意差はなかったものの「女性の方が男性よりリーダーシップの効果が高い」という結果になった。
②役職別に見ると、中間管理職以上で女性の方が評価スコアが高く、役職が上位になるほど男女の差が開いている。
③リーダーシップ力の評価に関しては、評価項目となった16のリーダーシップ・コンピテンシーのうち、12のコンピテンシーで、女性が男性を上回った。
④これまで認識されていたような「周囲の人の能力を開発する」「人間関係を築く」といった元来女性の強みである対人関係のコンピテンシーや、「誠実で正直である」「自己開発に努める」といった縁の下の力持ち的なコンピテンシーだけがもはや女性リーダーの強みではない。
⑤従来男性リーダーの強みと思われてきた「指導力を発揮する」「ストレッチ目標を設定する」「結果を重視する」についても、男性よりも女性の評価が高い。
⑥所属部門ごとに見ても、おしなべて女性の方がスコアが高い。女性の方が低いのは、顧客サービス、事務、施設メンテナンス。顧客サービスや事務部門は女性がリーダーになりやすい部門と認識されていたが、どうもそうではないらしい。
⑦評価スコアの下位10%に入る割合は、男性が10.7%で女性は8.7%。一方、上位10%に入る割合は、男性は9.2%で、女性は11.5%である。

出典:「A Study in Leadership:Women do it Better than Men」
(Zenger/Folkman、2012)

■エレクセの所感

・日本でも、2015年までに、組織における課長職以上の女性リーダーを10%にするという目標を掲げ、大企業中心に、女性リーダー育成が人材育成の重要課題となっている。
・女性リーダー育成のハードルとして認識されているのが、能力よりも女性自身の意識と言われている。女性は、男性に比べ、新たな難易度の高い仕事へのチャレンジを避ける傾向にあるという。
・この認識について、フェイスブックのCOOのシェリル・サンドバーク氏が、著書や講演で、「女性は出世するほどに男性からも女性からも好感度が下がり、社会的に成功することが必ずしもプラスに働かないのでチャレンジに消極的になってしまう」と述べ、注目を集めている。
・セッションの会場に集まった多くの女性参加者からも同様の声が上がった。多くの人