ATD2012報告

トップ > リーダーの本棚 > ATD2012報告

ATD国際会議

ATD(旧称:ASTD)国際会議は、年一回、世界80カ国から1万人が参加し、4日間で300ものセッションが行われる人材開発、組織開発に関する世界最大のイベントです
【ATDの詳細こちら(ATD INTERNATIONAL NETWORK JAPANのホームページ)】

ここでは、2012年に取材した、リーダーシップ開発に関する新しいトレンドとそこで得た知見をピックアップして皆様にお届けします

2012年度 開催日:2012年5月6日~9日    開催地:米国コロラド州デンバー

2012年度 ATD国際会議 関連記事一覧


► 国際ビジネスコミュニケーション協会 グローバルマネジャー 寄稿
  2012年「米国におけるグローバル人材開発最新事情」ASTD国際会議 大会レポート


► 弊社発行メールマガジン記事
  ASTD2012にみるリーダーシップ開発のWhat's New

  

○ASTD2012 全体概説 ”今年はイノベーションに注目が集まる”

■ASTD2012の主要テーマ

・今年のメインテーマは、“新しい学びと卓越した成果の実現”。
・セッションテーマは、専門領域別に、「リーダーシップ開発」や「学習テクノロジー」といった8つの内容トラックに分かれており、各内容トラックのセッション数から、その年にASTDが注目する人材開発・組織開発のトレンドを読み取ることができる。今年の内容トラックごとのセッション数は、「学習のデザイン・運営」が最多の61で、2番目の「リーダーシップ開発」が49、3番目の「人材開発」が47だった。
・アメリカ以外の国からの発表は年々増えており、今年からは「グローバル人材開発」が新たにトラックに加わった。

■イノベーションを起こすリーダーシップ

・メインテーマに沿って、例年3つの基調講演が行われるが、今年の講演者には、世界的ベストセラー書「ビジョナリーカンパニー」(日経BP社)の著者で、“Great by Choice”(未邦訳)という最新刊を出したジム・コリンズ氏、世界経済フォーラムのイノベーション評議会議長で、エコノミスト誌から“Mr. Creativity”という呼び名を付けられたジョン・カオ氏、1990年代後半から心理学分野で注目されているポジティブ心理学の第一人者の一人、ハイディ・グラント・ハルバーソン氏の3名が選ばれた。
・コリンズ氏もカオ氏も「イノベーションを起こすリーダーシップはいかにあるべきか」を主眼におき、講演を行った。ハルバーソン氏は「困難な条件に対処するのに有効なマインドセット」について語った。
・この基調講演はどれも、イノベーションを生み出す源泉としての人材・組織の開発において、示唆にあふれるものだった。
・さらに個別セッションでは、組織イノベーションに関する最新の調査結果として、イノベーションへの取り組み度合いの高い企業は、企業業績も高い傾向にあることが示された。

■エレクセの所感

日本企業が国際競争力の復活を実現するためには、組織のリーダーシップ力と社員のエンゲージメントを高め、イノベーションを生み出す源泉の社員の仕事力を高めるという難易度と緊急度の高い課題に取り組まなければならない。
・企業が社員のエンゲージメントと力を高めるカギは、社員が自分の成長と将来を託すことができるリーダーと組織をつくることであり、そのための第一歩として、社員が希望を抱く未来の姿を示すことが大事ではないか。
・また、社員の創意工夫する力を高めるには、社員に自分で判断する経験を早くから積んでもらう必要がある。したがって、社員には若いうちから裁量を与え、上司の指示を待つのではなく、自身で判断する機会を増やすべきだ。
・若手に権限委譲を進めていくと、組織の上層で一部の年配社員の仕事がなくなる企業も出てくるかもしれない。しかし、本気でイノベーションを起こして生き残りたい企業は、世代交代を進めるしかないのではないか。

目次へ戻る

○ジム・コリンズ氏 基調講演より 「優れたリーダーのXファクター」

■自分を越えて他者を活かすレベル5のリーダー

・基調講演スピーカーのジム・コリンズ氏は、世界的ベストセラー「ビジョナリーカンパニー」(日経BP社)の著者で、最近“Great by Choice”(未邦訳)という最新刊を出している。
・彼が示すリーダーシップの階層は5つのレベルになっている。
 レベル1:個人の能力
 レベル2:チームメンバーへの貢献
 レベル3:マネジメント能力
 レベル4:リーダーとしての優秀性
 レベル5:“レベル5のリーダー”
・レベル4のリーダーは、自分の中に、健康的なエゴ(自我)、野望、自信、不屈の意思を持っているが、あくまで焦点は自分中心にある。
・レベル5のリーダーは、自分を越えて外部へ視点を向ける。企業のミッションやバリューを形作り、自分がいなくなっても継続可能な組織を作り上げるのがレベル5のリーダーである。
・そのために、レベル5のリーダーには、自分自身の行動に対し「謙虚さ」を持ち、自分よりも優れた人を選んで自分を越えさせ、他者の話にを傾け、厳しい現実を直視し、着実に行動することが求められる。
・企業にとって、トップだけでなく部門レベルで、レベル5のリーダーが必要だが、それだけのリーダーがいないことが一番の危機となっている。

■レベル5のリーダーの行動とは?

・コリンズ氏は、イノベーションを起こすリーダーシップはいかにあるべきか、レベル5のリーダーの行動のあり方として以下の3つを 挙げている。
・「Fanatic Discipline(規律を重んじる)」:困難に面してもルールを変えず、追い風のときも行き過ぎない。常に規律を保って前進し、成果を一貫して出し続ける。環境の後押しで能力を越えたオペレーションを続けていると、困難な状況に陥った際に組織は持ち応えられなくなる。 ・「Empirical Creativity(経験に基づいた創造性)」:会社の命運をかけるイノベーションには多くの経験にもとづいた判断が必要。未知の世界では、いきなりスマートでクリエイティブな新しい アイデアに賭けるよりも、多くの体験を集めて活かすことに賭ける。リーダーには、両方を併せ持つことが難しい創造性と規律をミックスし、規律を創造性に優先させることが求められる。
・「Productive Paranoia(生産的なパラノイア)」: いつか問題が起こったときのために、準備は万端にしておく慎重さが必要。

■エレクセの所感

低成長に悩む多くの企業が、イノベーションを求め、イノベーションを 促進する組織のリーダーはいかにあるべきかを模索している。
・イノベーションやクリエイティビティの促進と聞くと、私たちはどうしても“自由闊達さ”、“大胆さ”、“新規性”といった要素を重要視しがちであり、“規律”はそこにもっともふさわしくないキーワードのひとつだ。
・ところが、イノベーションを促進する組織をつくり、持続させることが使命のリーダーにとっては、規律、経験といったイノベーションやクリエイティビティとは離れた性質を併せ活かすリーダーシップが求められる。
・コリンズ氏の主張は、イノベーターやクリエイターそのもののリーダーシップと、その人たちを活かすリーダーのリーダーシップが異なることを教えてくれる。

目次へ戻る

○”Mr. Creativity”氏の基調講演より 「イノベーションのエッセンス」

■ジャズを通じてイノベーションのエッセンスを考察する

・プレゼンターのジョン・ケイオー氏は、エコノミスト誌にMr. Creativityと称され、世界経済フォーラムのイノベーション評議会議長も務めるイノベーションの第一人者。
・ゼネラルセッションのプレゼンターは、その年にASTDが注目しているテーマの第一人者が選ばれることが多い。今年のメインテーマの一つはイノベーションであり、今年の多くのセッションが、イノベーションを扱っていた。
・会場にはピアノが持ち込まれ、プレゼンテーションの合間に、ケイオー氏は、イノベーションのエッセンスをジャズの即興演奏に例え、その場でジャズの即興演奏(譜面に示されていない独自のアレンジを加える演奏スタイル)を行った。
・ケイオー氏は、全米ピアニストコンクールで、過去に上位入賞を果たしたピアニストの顔も持つ。 ・以下、内容面での主なポイントを今回と次回の2回に分けて報告する。

■クリエイティビティとイノベーションは異なる

・ケイオー氏は、クリエイティビティ(創造力)は、人間誰にも備わっているアイディアを生み出す能力であるのに対し、イノベーションは、価値を生むという目的をもっており、目指す未来を実現するための変革を指す、と明確に2つを区別している。

■自由と規律の両方がイノベーションには欠かせない

・イノベーションは、野放図な自由から生まれるのではなく、一定のルール・規律(Creative Tensions)から生まれる。
・聴衆に自身の考えを分かってもらうため、ケイオー氏は、曲の譜面を見せた後、譜面どおりに弾くパターン、奇をてらって弾くパターン、ジャズの即興演奏のパターンを演じ分ける。
・聴衆は、それを聴いて、一見その場の思いつきで弾いているように見えるジャズの即興演奏には、演奏者自身のアイディアが込められている一方で、実は和音などの一定の決まりがあり、この自由と規律のバランスが、音楽として多くの人の琴線にふれるということに気づいていた。

■失敗から成功が生まれる

・失敗し続けるリスクを取らなければ、イノベーションは生まれない。
・ケイオー氏は、これをジャズの即興演奏を上達する秘訣に例えた。ジャズの上達には、練習を通じて失敗することが大切であり、何度も失敗し続けるリスクを取ることで、上達していく。
・さらに、共同演奏を通じて、仲間たちから即興演奏のコツを学んでいくのだそうだ。

■ジャズバンドのようなダイバーシティ

・ジャズバンドには、ダイバーシティが欠かせない。曲を通じて表現したい世界観を描く人、世界観を実際の曲に仕上げる人、世界観を表現するための演奏テクニックを考案する人、聴衆の感動を引き出すため実際の演奏の細部に工夫を施す人といった、得意技が異なる人が集まって 素晴らしい演奏になる。

■リーダーは、多くを語らない

・異なる得意技を持つ人の集まりであるバンドのリーダーは、ああしろこうしろと事細かな指示はしない。メンバーが自分たちで答えを見つけ出すのを見守るのが、リーダーだ。

■イノベーションは、「まったく新しいもの」というより、「組み合わせ」

・ジャズの即興演奏では、まったく新しいものというのは少なく、大半がこれまでのアイデアの組み合わせから生まれるらしい。
・アイデアの組み合わせを生み出し続けるには、地道な練習を重ねて熟練した演奏スキルを身につけながら、初心者の新鮮な目を持ち続けることが大事とのことだ。

■新たなものを生み出す志+トライアル+失敗からの学び

・世の中に感動を呼び起こすという目的を目指し、新しいものを生み出したいという志を共にした仲間たちとの練習を通じて、失敗から日々学び続けることが、イノベーションとして結実する。

■エレクセの所感

・昨年のダグラス・コナン氏(キャンベルスープのCEO)のセッションが、「タッチポイント」という新しいリーダーシップの概念を中心に据え、タッチポイントという内容を前面に打ち出していたのに対し、今年のカオ氏のセッションは、即興ジャズを用いたインパクトあるスタイルが印象的だった。
・ゼネラルセッションの二人、コリンズ氏とカオ氏が共に、Discipline(規律)を強調していたことが印象に残った。市場至上の資本主義を唱え、欲望の追求に歯止めをかけなかった行き着く先がリーマンショックであった反省が、多くのアメリカ人の共感を呼ぶからなのだろうか。
・「リーダーは多くを語らない」というカオ氏のイノベーション・リーダーシップの考えは、日本の落語界に脈々と受け継がれている「芸は盗め」に通ずるものがある。日本の落語界を代表する落語家、柳家小三治いわく、「自分の弟子には、基本的に「芸は盗め」式で稽古を付ける。手取り足取りは教えない。自分で考え、自分で発見していくしか道はない。」
・また、三遊亭円丈いわく、「修業に関していちばん必要なことは「芸は盗め」 ということです。教えられて身に付くものなんてたかがしれている。しかし、自分が弟子をもって愕然とすることは、芸を盗めない弟子が多いことだ。それは落語に対しての明確な目的がないからだと思う。」(『ザ・前座修業』 稲田和浩・守田梢路著 NHK出版)
・結局のところ、イノベーションは、何かを生み出す明確な目的に衝き動かされ、失敗を繰り返し、目的を共有した仲間から練習を通じて学び続け、自らが考え続け実践し続ける地道な営みから生まれるのだろう。

目次へ戻る

○i4cpのCEO ケビン・オークス氏(ASTD日本支部顧問)によるイノベーションに関する 調査報告より
「高業績企業が持つイノベーション促進の明確な意志と行動」

■イノベーション促進のカギとなる5つの領域

・毎年イノベーションに関するセッションを行っているi4cpのCEO、ケビン・オークス氏(ASTD日本支部顧問)が、イノベーションに関する最新の調査結果を発表。回答企業数は、世界各国にわたる40以上の業種の1194社。
・高業績企業(回答企業全体の40%)は、イノベーションを促すための5つ の領域(戦略、リーダーシップ、人材、組織文化、顧客志向)において、低業績企業(全体の15%)に比べて優れている。

■高業績企業はイノベーションの重要性を認識している

・イノベーションの重要性が高い企業は、高業績では87%、低業績では40%。
・イノベーションで高い成果を上げている企業は、高業績では68%、低業績では8%。
・一方、イノベーション戦略の欠如が阻害となっている比率は、高業績が31%であるのに対し、低業績では58%。
・イノベーションを推進している中心の階層は、経営層が、高業績では55%、低業績では45%、社員が高業績では12%、低業績では22%。経営層のリーダーシップの重要性が示されている。

■人材面でもイノベーション促進を重視

・コンピテンシーにイノベーションを盛り込んでいる企業は、高業績では58%、低業績では50 %と大きく変わらない。一方、具体的なプログラムを導入してコンピテンシーを高めようとしている企業は、高業績では53%であるのに対し、低業績では30%に過ぎない。
・イノベーションを促すために人材を採用している企業は、低業績では10%に過ぎないのに対し、高業績では3分の1(34%)に達する。
・人材開発部門がイノベーション部門(研究開発や商品開発部門)と積極的に協働する比率が、高業績企業では低業績企業に比べ高い。

■イノベーション促進のための組織文化を育む

・企業文化がイノベーションを促している割合は、低業績では14%に留まるのに対し、高業績では44%に上る。i4cpは、イノベーションを促進する組織文化の要因として、リスクテーク、完璧を求めないこと、失敗の許容などを挙げている。

■エレクセの所感

・全世界の1000社以上の企業を対象とした今回の調査でわかったことは、高業績企業は、戦略、組織文化、経営層のリーダーシップ、人材育成・活用といった面で、明確な意志をもってイノベーションを促進しようとしていること。
・調査結果は、当たり前の内容という印象があるが、当たり前のことが、客観的事実に裏付けられたことに意味があるのではないか。
・本調査結果を聞きながら、弊社が5年以上支援している消費財メーカーA社のことが思い出された。A社は、企業ビジョンに、イノベーションの促進を表した独自の言葉を掲げている。ビジョンに掲げるだけでなく、毎年春には、社長以下幹部が100名以上集まって合宿を行い、イノベーションとリーダーシップについて、具体的なテーマを設けて徹底的に議論し、合宿で問題提起された課題には即取り組んでいる。
・人材開発部門のミッションとして、イノベーションを促す文化を作り、それを支える変革リーダーを育てることを掲げ、社員にスキルや知識を習得させるのではなく、リーダーシップ開発に注力している。イノベーションを促すため、他社との協働・連携にも積極的で、実際に他社と共同開発したヒット商品を、ここ数年数多く世に送り出している。

・組織全体でイノベーションし続けるには、イノベーションを促進する戦略を明示し、それを実現するために、経営トップがコミットメントを示して、組織文化の醸成とリーダーの育成に注力するということが、当たり前ではあるが、処方箋なのだろう。A社のように、当たり前のことを地道に行えることがイノベーションの持続と高業績につながる。
・弊社設立時に、A社の社長、Mさんから贈ってもらった言葉がある。リーダーの心得のABC、「あらゆることを、ばねにして、チャンスにしていく」。東日本大震災の後、数ヶ月間非常に厳しい状況が続いたときに、この言葉を糧に生き残ることができた。Mさんに心から感謝したい。

目次へ戻る

○AMA(アメリカン マネジメント アソシエーション)による「グローバルリーダー シップ開発調査 第3回(2012年度)」調査報告より
「グローバルリーダー育成の焦点は「影響を与え協働する力」」

■高業績企業が最もフォーカスする「影響を与え協働する能力」

・本セッションでは、AMA(アメリカン マネジメント アソシエーション)が毎年1000社以上の企業を対象に実施している「グローバルリーダーシップ開発調査」の第3回(2012年度)から主な結果が紹介された。
・グローバルリーダーシップ開発のプログラム内容に最も多く含まれているコンピテンシーの上位5位は、昨年結果と変わらず、「チェンジマネジメント」「クリティカルシンキング/問題解決」「影響を与え協働する能力」「戦略開発力」「戦略実行力」の5つだが、「影響を与え協働する能力」 が5位から3位に浮上。
・求められる能力レベルと現状のレベルにギャップが認識され、強化重視されているコンピテンシーは、「チェンジマネジメント」「影響を与え協働する能力」だった。
・さらに、高業績の組織が最も焦点をおいているのは、「影響を与え協働する能力」である(30%弱が最も焦点をおいていると回答している)。

■プログラムの内容を決めるのは「長期戦略にもとづくコンピテンシー」

・高業績組織におけるプログラムの内容決定を左右する要素のトップ3は「長期的ビジネス戦略にもとづいて決定されたコンピテンシー」(76.7%)、「経営層からの特別な要望や方向性の指示」(75.6%)、「コーポレートバリュー」(73.3%)。

■プログラム実施は社内から外部の専門家にシフト

・高業績組織も低業績組織も、昨年に比べ、グローバルリーダーシップ開発プログラムのあらゆる面における経営陣の関与が落ちてきている(唯一増えているのは講師としての関与のみ)。人材育成部門にとっては、グローバル戦略支援全体の中から、リーダーシップ開発プログラムが 避けられていないかを検討する必要があるかもしれない。
・外部ベンダーの利用はひきつづき増加しており、2010年が65%だったのに対し、2011年は80%(15%増加)となっている。その理由は、外部ベンダーにプログラム実施の能力があることがわかり、領域専門家(SME)にプログラムを任せることを組織が望むようになったからだと推測される。
・また、世界中の拠点でプログラムを実行するにあたり、それを外部ベンダーに任せるようになってきており、特に高業績組織についてはその傾向が強い(全体の56%がそのように回答している)。

■グローバル企業が重視するグローバルリーダーのコンピテンシーとは

・「今後10年間にグローバルリーダーに求められるコンピテンシー」に関し、重要度が高いと考えられているトップ3には、「経営の俊敏性」(72.3%)、「異なる文化背景を持つ同僚との協働力」(63.5%)、「バーチャルチームマネジメント」(62.8%)があがった(カッコ内は「重要」と答えた人の割合)。
・一方、重要度と現在の習熟度のギャップが大きい、今後開発を要するコンピテンシーのトップ3は、「バーチャルチームマネジメント」(40.5%)、「経営の俊敏性」(39.2%)、「異文化間の従業員エンゲージメント」(36.2%)だった。
・回答者に共通の見解は、今後10年に渡り、マトリクス型組織におけるバーチャルマネジメント、クロスカルチャー環境への適応とその環境下でのマネジメント能力の重要性が高まるというものだった。

■多文化環境の中でイノベーションを起こす

・高い企業業績を出している組織が重要視している、将来必要となるコンピテンシーは、「多文化環境におけるイノベーションのマネジメント」と「多文化のメンバーとのコラボレーション」だった。ダイバーシティを活用したイノベーションを起こし、育てることがリーダーに求められている。

■テクノロジーの習熟と活用

・「バーチャルチームの管理」や「ソーシャルネットワーキングの習熟(今回新たに6位に登場)」といったテクノロジー活用も新しいトレンドとして注目される。
・また、仕事におけるバーチャルコミュニケーションやソーシャルネットワーキングの活用の増加に関連して、リーダーにはテクノロジーの習熟が重要なスキルと受け止められている。

■エレクセの所感

・今求められているのは、本社でグローバル事業戦略を企画管理したり、現地拠点で本社との連絡調整業務を行ったりする人材ではなく、ローカル人材といっしょになって現地市場を開拓していく切り込み型の「現地拠点のリーダー」だ。
・弊社では、そのような人材を、海外事業の責任者として、経営視点をもって「自社の理念や提供価値を、海外の市場・顧客・社員にも伝え、多様な人材を活かして現地で自社の存在意義を高めることができる人材」と定義づけている。
・「影響力を与え協働する能力」は、ローカルの人材を巻き込んで、その 人たちの能力を活用し、適時適切に現地市場にふさわしい戦略を開発、実行するためには、欠かせない能力だと認識されているのだろう。
・前回も述べたが、今最も求められているのは、本社でグローバル事業戦略を企画管理したり、現地拠点で本社との連絡調整業務を行ったりする人材ではなく、海外事業の責任者として、経営視点をもって「自社の理念や提供価値を、海外の市場・顧客・社員にも伝え、多様な人材を活かして現地で 自社の存在意義を高めることができる人材」だ。
・その人材たちには、多文化環境に馴染むことを越えて、多文化環境や人材を活用し、イノベーションを起こして、さらに業績を向上させるという、非常に難易度の高いマネジメントの実践とリーダーシップの発揮が求められている。
・したがって、グローバルリーダー育成プログラムの内容は、赴任地での仕事や暮らしに馴染むための支援中心から、海外という“アウェイ”の厳しい環境で成果を出すために、本来の経営リーダー育成を重視したものにシフトさせていく必要があるのではないか。
※この調査に関する詳しい内容は、こちらの寄稿記事でごらんになれます
国際ビジネスコミュニケーション協会「グローバルマネジャー」
「米国におけるグローバル人材開発最新事情」
ASTD ICE 2012から 加速するグローバルリーダーシップ開発
https://www.toeic.or.jp/ghrd/seminar/index.html


目次へ戻る

○日経ビジネスによる「社員エンゲージメント調査」調査報告より
「日本の社員エンゲージメント指数は世界最下位」

・今回は、日経ビジネスのレポートで触れた「社員エンゲージメント調査」の概要を紹介する。
・Kenexa High Performance Instituteは、毎年エンゲージメントに関する調査を世界各国で行っている。本セッションでは、2011年の調査結果をもとに、エンゲージメントとリーダーシップ、企業業績との関係を分析。回答者数は、世界28カ国で、100名以上(中東諸国は25名以上)のスタッフを有する組織のフルタイム社員31000名以上。

■社員エンゲージメントを測る指標

・EEI(Employee Engagement Index)は、自社への誇り(Pride in Company)、働く場所としての高い満足感(Extreme Satisfaction)、自社への支持(Advo-cacy)、リテンション(Retention)の4つの要素から成る。
・社員のエンゲージメントは、①未来に自信を持たせてくれるリーダー、②社員を尊重し、品質と改善を優先するマネジャー、③成長と能力開発の機会を与えてくれる仕事、④社員と地域社会に対する真の責任を果たす組織、の4つの要因に左右される。
・2011年の調査で、EEIは、全体で前年の60%から55%に5%下がった。くわえて、すべての主要国、すべての産業、すべての職種で、前年に比べて下がった。

■日本は社員エンゲージメント指数が調査国中で最低

・日本は、調査対象国中で最低。日本以外で低い国は、低い順に、韓国、フランス、フィンランド、イギリス、イタリア。一方で、高い国は、高い順に、デンマーク、インド、オランダ、ブラジル、メキシコ。
・産業別では、ハイテク産業(63%)が一番高く、高い順に、重工業・軽工業(56%)、医療サービス(54%)、金融(54%)、小売(52%)、政府・公的機関(49%)。

■リーダーシップは社員エンゲージメントへのインパクト大

・アメリカを例に分析すると、EEIは、企業業績との相関が高い。相関係数は、年間純売上高で0.32、EPSで0.27、株主リターンで0.45。
・LEI(Leadership Effectiveness Index;Vision、Ability、People、Quality、Con-fidenceの5つの要素から成る)は、エンゲージメントへのインパクトが大きい。LEIが低い組織はEEIが20%に留まっているのに対し、LEIが高い組織ではEEIが80%を超えており、4倍以上の水準に達する。
・本調査では、LEIと企業業績(EPSおよび株主リターン)との相関も認められた。

■エレクセの所感

・組織のリーダーシップ力が社員のエンゲージメントに影響を与え、社員のエンゲージメントの高さが企業業績を左右するということが、本調査で統計的に立証された。そして、日本は、近年社員のエンゲージメント指数で最下位が定席になっているようだ。
・本調査では、各国別のLEI、EEI、企業業績の相関の分析結果は示されていないが、日本経済と日本企業の低迷が長引くミクロ要因には、組織のリーダーシップ力と社員のエンゲージメントの低さがあるのは間違いないだろう。別の人事コンサルティング会社の調査(2005年実施)でも、日本の社員の 働く意欲は、調査対象16カ国中2番目に低いという結果だった。
・プレゼンター企業が提示したエンゲージメント要因は、目指す未来の姿を自信を持って示す経営者、部下を尊重し信頼できる上司、自己の成長機会、社会善を重んじる組織文化に集約されるのではないか。特に、前述の人事コンサルティング会社の調査では、自社のリーダーのマネジメントの質が低い と答えた人の割合が、調査対象国中日本が一番多かった。
・バブル崩壊後、目先の業績を高めるため、「引き算の経営」に明け暮れ、気がついたら社員の働く意欲とエンゲージメントが下がってしまったというのが、2000年代以後の標準的な日本企業の姿ではないか。中長期的に企業業績を高めるには、組織全体のリーダーシップ力を高め、再び社員のハートに火を灯すことが、日本企業の最大の課題かもしれない。

目次へ戻る

○コーンフェリー社のセッションより
「未来のリーダーにふさわしいのは“学びの早い人材”」

・今回は、コーンフェリー社がセッションで発表した、リーダーに求められる能力「ラーニング・アジリティ(Learning Agility)」の概念について紹介する。

■ラーニング・アジリティが求められる背景

・以前に比べ、CEOの就任年齢は下がってきており、経験の浅い若い人材が、前よりも難しい職務に取り組まなければならず、職務とそれを務める人材のスキルギャップが広がってきている。
・したがって、スキルギャップを軽減するためには、新しい職務で“学びの早い人材”が重要となる。

■ラーニング・アジリティの定義とその由来

・ラーニング・アジリティとは、「経験からすすんで学ぶ能力を持ち、新たな状況でその学びを活用する能力」と定義付けられる。・ロミンガー社やCCLの先行研究から、失敗する取締役と成功する取締役 の差は「新しいことを体験できるかどうか」であることが導き出され、この研究が発展して、ラーニング・アジリティという用語が生まれた。
・“学びの早い人材”は、本から得た知識が豊富でIQが高いということではなく、特定の学習において、持ち前の好奇心で機敏にアクティブに様々なことを学習でき、多様な経験を求め、これまでに培った原則を新たな場で活用し、複雑な問題解決にすすんで取り組む人材である。

■ラーニング・アジリティの要素

・ラーニング・アジリティは「行動のセット」である。行動は評価できるので、ラーニング・アジリティは能力とやる気で開発することが可能である。
・ラーニング・アジリティの要素は以下の5つである。
 -メンタル・アジリティ(Mental Agility):
好奇心と広い視野を持ち、問題を根本まで掘り下げて解決する
-ピープル・アジリティ(People Agility):
オープンマインドで他者を理解しコミュニケーションする
-チェンジ・アジリティ(Change Agility):
改善志向で、変化を求め、リスクをとる
-リザルト・アジリティ(Result Agility):
好業績のチームを作り、困難な問題解決に挑戦し、成し遂げる
   -セルフ・アジリティ(Self-Awareness):
上記4つの要素を統合するのがセルフ・アウェアネス(Self-Awareness:自己への気づき)であり、自己の目的に沿って、他者からのフィードバックを求める

■“学びの早い人材”のリーダーシップ開発

・リーダーシップ開発において、「広く学ぶ」ことを重視したほうがよいのが、新たなタフな状況において成果を出す“学びの早い人材(Agile Learner)”であり、その対比として、「深く学ぶ」ことを重視したほうがよいのが、特定の仕事を年々掘り下げる“専門家人材(Mastery Oriented)”である。 ・組織における配置や育成において、この2種類の人材の取り扱いは異なる。“学びの早い人材”に向くのは、従来の考え方から離れて新しい発想でイノベーションを起こす役割であり、“専門家人材”に向くのは、限定された範囲を掘り下げ、そこでイノベーションを起こす役割である。

■エレクセの所感

・グローバル展開や技術の進展など、ビジネス環境の変化が激しい中“学びの早い人材”は、新たな市場を開拓するグローバルリーダーやイノベーションを促進するリーダーには打ってつけで、将来の成果創出が期待されるハイポテンシャル人材にふさわしいと言える。
・経験から学習する“学びの早い人材”のリーダーシップ開発には、チャレンジングな職務を早い期間で経験させることが必要だ。新しい厳しい体験の中で学習し、次の職務でその学習を活かし成果を上げ、さらに学習する、という成長サイクルを築くことが重要となる。
・考えてみると、グローバルで成功している企業のリーダー育成は、まさにこのサイクルを描いている。複数の国の異なるポジションを短期間で次々と経験することが、エグゼクティブ候補のキャリアとして確立しており、その結果、40歳代のエグゼクティブが生まれる。
・“学びの早い人材”の見極めと適切なリーダーシップ開発は、グローバルリーダー育成が急務となっている日本企業にとっては、注目に値しよう。

目次へ戻る

○グローバルの人事・人材開発コンサルティング会社 DDI社のセッションより
「リーダーシップ開発の焦点は「インタラクション強化」」

今回は、グローバルの人事・人材開発コンサルティング会社DDIが提唱したリーダーシップ開発でフォーカスすべき重要なコンピテンシーについての考え方を紹介する。

■リーダーシップコンピテンシー開発の課題

・DDIの2011年の調査によると38%のエグゼクティブが自社のリーダーシップの質が強固だと考えており、20%は自社の人材が充実していると思っている一方で、相対する3分の1の従業員たちは上司が 優れているとは思っていない。
・過去、1981年からコンピテンシー開発は進化し、タレントマネジメントシステム全体に組み込まれるまでになってきた。しかし、リーダーシップ開発においては、「説得力」「インタビュースキル」のように、特定のリーダー層が、いま現在強化を必要とする個別のコンピテンシーをいくつかピックアップして、バラバラに扱うトレーニングが行われており、それがリーダーシップ向上の行き詰まりを招いているのかもしれない。

■フォーカスすべき4つの要素

・現状打開のためには、リーダーシップ開発でフォーカスする重要なコンピテンシー(インタラクション・エッセンシャルズ:コーチング、他者影響、意思決定、権限委譲の4つの要素)に絞るべきである。
・インタラクション・エッセンシャルズの強化は、社員の個人のニーズを満たす、効果的なインタラクションを可能にし、仕事の成果を向上させる。
・個人のニーズとは、「自尊」「共感」「積極的な関与」「信頼構築のための共有」「権限委譲のための支援」の5つである。この個人のニーズ向上には、職場のインタラクションにおいて、上司部下のお互いがオープンに、問題点を明確化・発展させ、合意させるというプロセスが効果的である。
・インタラクション・エッセンシャルズが重要な証拠は、次の5つである。
(1)どの組織階層でも上司のインタラクションに関する社員の不満が多い
(2)リーダーシップ&マネジメントコンピテンシーとの相関が高い
(=インタラクション・エッセンシャルズの高い人は、リーダーシップ&マネジメントコンピテンシーも高い) (3)インタラクション・エッセンシャルズは業務行動に関連しており、
インタラクション・エッセンシャルズを駆使することによって職場のエンゲージメントと生産性が向上する
(4)インタラクション・エッセンシャルズは、成果向上に必要とされているEI(EQ)向上に効果的である
(5)インタラクション・エッセンシャルズは職場だけでなく、家庭でも活かせ、家族や周囲の関係者との関係改善によってその人の人生をも変える

■エレクセの所感

・日本企業の社員のエンゲージメント指数が世界29カ国比較で最低という ことが指摘されている(2012ASTD国際会議でのケネクサ社の調査発表)。また、同社の分析によると、組織のリーダーシップ力が社員のエンゲージメントに影響を与え、社員のエンゲージメントの高さが企業業績を左右する。
・社員のエンゲージメントを高める要因のひとつは、部下を尊重し信頼できる上司であり、社員にとっての成長機会。まさに、これらの要因は、インタラクション・エッセンシャルズによって左右される。
・たとえ外部環境が変わろうと、リーダーシップにおいて、人を動機付ける力は必須である。リーダーシップ開発での取り組みは、個別の手法やスキルに焦点を当てる前に、リーダーシップの土台を固めることが必要だ。

目次へ戻る

のアイデアの組み合わせから生まれるらしい。
・アイデアの組み合わせを生み出し続けるには、地道な練習を重ねて熟練した演奏スキルを身につけながら、初心者の新鮮な目を持ち続けることが大事とのことだ。

■新たなものを生み出す志+トライアル+失敗からの学び

・世の中に感動を呼び起こすという目的を目指し、新しいものを生み出したいという志を共にした仲間たちとの練習を通じて、失敗から日々学び続けることが、イノベーションとして結実する。

■エレクセの所感

・昨年のダグラス・コナン氏(キャンベルスープのCEO)のセッションが、「タッチポイント」という新しいリーダーシップの概念を中心に据え、タッチポイントという内容を前面に打ち出していたのに対し、今年のカオ氏のセッションは、即興ジャズを用いたインパクトあるスタイルが印象的だった。
・ゼネラルセッションの二人、コリンズ氏とカオ氏が共に、Discipline(規律)を強調していたことが印象に残った。市場至上の資本主義を唱え、欲望の追求に歯止めをかけなかった行き着く先がリーマンショックであった反省が、多くのアメリカ人の共感を呼ぶからなのだろうか。
・「リーダーは多くを語らない」というカオ氏のイノベーション・リーダーシップの考えは、日本の落語界に脈々と受け継がれている「芸は盗め」に通ずるものがある。日本の落語界を代表する落語家、柳家小三治いわく、「自分の弟子には、基本的に「芸は盗め」式で稽古を付ける。手取り足取りは教えない。自分で考え、自分で発見していくしか道はない。」
・また、三遊亭円丈いわく、「修業に関していちばん必要なことは「芸は盗め」 ということです。教えられて身に付くものなんてたかがしれている。しかし、自分が弟子をもって愕然とすることは、芸を盗めない弟子が多いことだ。それは落語に対しての明確な目的がないからだと思う。」(『ザ・前座修業』 稲田和浩・守田梢路著 NHK出版)
・結局のところ、イノベーションは、何かを生み出す明確な目的に衝き動かされ、失敗を繰り返し、目的を共有した仲間から練習を通じて学び続け、自らが考え続け実践し続ける地道な営みから生まれるのだろう。

目次へ戻る

○i4cpのCEO ケビン・オークス氏(ASTD日本支部顧問)によるイノベーションに関する 調査報告より
「高業績企業が持つイノベーション促進の明確な意志と行動」

■イノベーション促進のカギとなる5つの領域

・毎年イノベーションに関するセッションを行っているi4cpのCEO、ケビン・オークス氏(ASTD日本支部顧問)が、イノベーションに関する最新の調査結果を発表。回答企業数は、世界各国にわたる40以上の業種の1194社。
・高業績企業(回答企業全体の40%)は、イノベーションを促すための5つ の領域(戦略、リーダーシップ、人材、組織文化、顧客志向)において、低業績企業(全体の15%)に比べて優れている。

■高業績企業はイノベーションの重要性を認識している

・イノベーションの重要性が高い企業は、高業績では87%、低業績では40%。
・イノベーションで高い成果を上げている企業は、高業績では68%、低業績では8%。
・一方、イノベーション戦略の欠如が阻害となっている比率は、高業績が31%であるのに対し、低業績では58%。
・イノベーションを推進している中心の階層は、経営層が、高業績では55%、低業績では45%、社員が高業績では12%、低業績では22%。経営層のリーダーシップの重要性が示されている。

■人材面でもイノベーション促進を重視

・コンピテンシーにイノベーションを盛り込んでいる企業は、高業績では58%、低業績では50 %と大きく変わらない。一方、具体的なプログラムを導入してコンピテンシーを高めようとしている企業は、高業績では53%であるのに対し、低業績では30%に過ぎない。
・イノベーションを促すために人材を採用している企業は、低業績では10%に過ぎないのに対し、高業績では3分の1(34%)に達する。
・人材開発部門がイノベーション部門(研究開発や商品開発部門)と積極的に協働する比率が、高業績企業では低業績企業に比べ高い。

■イノベーション促進のための組織文化を育む

・企業文化がイノベーションを促している割合は、低業績では14%に留まるのに対し、高業績では44%に上る。i4cpは、イノベーションを促進する組織文化の要因として、リスクテーク、完璧を求めないこと、失敗の許容などを挙げている。

■エレクセの所感

・全世界の1000社以上の企業を対象とした今回の調査でわかったことは、高業績企業は、戦略、組織文化、経営層のリーダーシップ、人材育成・活用といった面で、明確な意志をもってイノベーションを促進しようとしていること。
・調査結果は、当たり前の内容という印象があるが、当たり前のことが、客観的事実に裏付けられたことに意味があるのではないか。
・本調査結果を聞きながら、弊社が5年以上支援している消費財メーカーA社のことが思い出された。A社は、企業ビジョンに、イノベーションの促進を表した独自の言葉を掲げている。ビジョンに掲げるだけでなく、毎年春には、社長以下幹部が100名以上集まって合宿を行い、イノベーションとリーダーシップについて、具体的なテーマを設けて徹底的に議論し、合宿で問題提起された課題には即取り組んでいる。
・人材開発部門のミッションとして、イノベーションを促す文化を作り、それを支える変革リーダーを育てることを掲げ、社員にスキルや知識を習得させるのではなく、リーダーシップ開発に注力している。イノベーションを促すため、他社との協働・連携にも積極的で、実際に他社と共同開発したヒット商品を、ここ数年数多く世に送り出している。

・組織全体でイノベーションし続けるには、イノベーションを促進する戦略を明示し、それを実現するために、経営トップがコミットメントを示して、組織文化の醸成とリーダーの育成に注力するということが、当たり前ではあるが、処方箋なのだろう。A社のように、当たり前のことを地道に行えることがイノベーションの持続と高業績につながる。
・弊社設立時に、A社の社長、Mさんから贈ってもらった言葉がある。リーダーの心得のABC、「あらゆることを、ばねにして、チャンスにしていく」。東日本大震災の後、数ヶ月間非常に厳しい状況が続いたときに、この言葉を糧に生き残ることができた。Mさんに心から感謝したい。

目次へ戻る

○AMA(アメリカン マネジメント アソシエーション)による「グローバルリーダー シップ開発調査 第3回(2012年度)」調査報告より
「グローバルリーダー育成の焦点は「影響を与え協働する力」」

■高業績企業が最もフォーカスする「影響を与え協働する能力」

・本セッションでは、AMA(アメリカン マネジメント アソシエーション)が毎年1000社以上の企業を対象に実施している「グローバルリーダーシップ開発調査」の第3回(2012年度)から主な結果が紹介された。
・グローバルリーダーシップ開発のプログラム内容に最も多く含まれているコンピテンシーの上位5位は、昨年結果と変わらず、「チェンジマネジメント」「クリティカルシンキング/問題解決」「影響を与え協働する能力」「戦略開発力」「戦略実行力」の5つだが、「影響を与え協働する能力」 が5位から3位に浮上。
・求められる能力レベルと現状のレベルにギャップが認識され、強化重視されているコンピテンシーは、「チェンジマネジメント」「影響を与え協働する能力」だった。
・さらに、高業績の組織が最も焦点をおいているのは、「影響を与え協働する能力」である(30%弱が最も焦点をおいていると回答している)。

■プログラムの内容を決めるのは「長期戦略にもとづくコンピテンシー」

・高業績組織におけるプログラムの内容決定を左右する要素のトップ3は「長期的ビジネス戦略にもとづいて決定されたコンピテンシー」(76.7%)、「経営層からの特別な要望や方向性の指示」(75.6%)、「コーポレートバリュー」(73.3%)。

■プログラム実施は社内から外部の専門家にシフト

・高業績組織も低業績組織も、昨年に比べ、グローバルリーダーシップ開発プログラムのあらゆる面におけ