ATD2010報告

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ATD国際会議

ATD(旧称:ASTD)国際会議は、年一回、世界80カ国から1万人が参加し、4日間で300ものセッションが行われる人材開発、組織開発に関する世界最大のイベントです
【ATDの詳細こちら(ATD INTERNATIONAL NETWORK JAPANのホームページ)】

ここでは、2013年に取材した、リーダーシップ開発に関する新しいトレンドとそこで得た知見をピックアップして皆様にお届けします

2010年度 開催日:2010年5月16日~20日 開催地:米国イリノイ州シカゴ

2010年度 ATD国際会議 関連記事一覧


► 弊社発行メールマガジン記事
  ASTD2010にみるリーダーシップ開発のWhat's New

  

○モチベーション向上の3つのキーワードが見えた


第1回は、最近、著書「モチベーション3.0」(大前研一訳)が日本でも 発売されたジャーナリストのダニエル・ピンク氏が基調講演で語った 「モチベーションを向上させるキーワード」について考えます。

■講演概要

・講演者のダニエル・ピンク氏は、世界的ベストセラー『ハイ・コンセプト』 (大前研一訳)を世に送り出した注目のジャーナリスト兼コンサルタント。
ゴア元副大統領の演説の素案を書いていたことでも有名。マシンガントークの 早口で、大きな身振り手振りを交え、途中でマイクを壊すくらいのエネルギッ シュな講演を行ってくれた。
・講演のメインテーマは、モチベーション。業務特性と必要なスキル特性をもとに、 mechanical skillが必要なオペレーション的業務と、rudimentary cognitive skillが 必要な複雑で創造的、概念的で繊細な業務の2つに大別し、モチベーションの 源泉について、前者に従事する人は金銭的報酬がパフォーマンス向上につなが るが、後者に従事する人には金銭的報酬がパフォーマンス向上に寄与しないと 訴えていた。
・後者の業務に従事する人がモチベーションを向上させるキーワードは、 Autonomy(自律)、Mastery(習熟)、Purpose(目的・存在意義)の3つ。 ・特に、自律については、Time(働く時間)、Task(仕事内容)、Team(働く仲間)、 Technology(活用する技術)の4つのTを働く人自身が選択できることが、 真の自律につながる。

■エレクセの所感:リーダーシップの原点とは?
・今年のASTD国際会議のテーマがFind your valueであったためか、本セッション だけでなく、さまざまなセッションで「自律」の大切さを説いていたのが印象に 残っている。
・そもそもリーダーシップの原点は自律。自分の人生や未来を自力で切り開いて いく中で、一緒に未来に向かう旅を歩んでくれる人が自然と集まってくるのが、 リーダーシップの理想の姿ではないか。
・そして、自律した人は、自分の職業観や組織理念(=Purpose)を軸に、社会・ 組織・自分自身の成長(=Mastery)を追い求めるもの。
・ピンク氏が、歴史上偉大な人物は、自分の存在意義や理想を語る「センテンスを 持っている」と、講演の最後を締めくくっていたのが秀逸だった。
・果たして、わたしたちはセンテンスを持てるような生き方をしているだろうか?

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○ソーシャル・メディアが変えるリーダーシップと人材開発


第2回は、シャーリーン・リー氏の基調講演から、twitter, Youtube, Facebook などソーシャル・メディア活用の高まりに対応した今後のリーダーシップと 人材開発のあり方について紹介します。

■講演概要
・スピーカーであるシャーリーン・リー氏は、ソーシャル・メディアとソーシャル・ テクノロジー分野のオピニオン・リーダーであり、米国でベストセラーになった 「グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略」の共著者。
・今回の講演のテーマは「オープン・リーダーシップ」。ソーシャル・メディアを 使ったディスカッションの場は広がっており、個人にパワー(権限)が移っていく。 リーダーはそれをコントロールできないので、いかにコントロールを手放し、社員 たちのAutonomy(自律性)を促しつつ支配力を持てるか、が大切になる。 そこで、リーダーに必要となるのは「透明性」であり、「情報共有や意思決定に おいてオープンになり、信頼する部下たちに権限委譲すること」。
・人材開発においても同様に、多くの人に対し、オープンにどのような情報を出して いくかを考えることが大切である。
・従来の人材開発部門は、学習の対象者とカリキュラムの内容、学習の場を決める ことを重視していたが、オープンな状態では、「何を学ぶかは社員を取り巻く環境 によって決まり」、「社員がいつでもどこでも学習でき」、「学習成果を測るために、 社員の行動変化を観察・評価しやすくする」方向性へとシフトする。
・人材開発をオープンにする戦略のゴールとして提示されたのが以下の4つ。
-Learn:社員に対し、いつでも常にコンテンツがオープンになっていること。併せて、 社員の学習・意見をモニタリングするためのツール(メディア)を用意し、そこから フィードバックを得る。
-Dialog:社員との対話によって学習についてのメッセージを発し、巻き込む。
-Support:会社は社員すべての学習ニーズには応えられないので、社内外の資源 をオープンに集めて、実践に結びつける。
-Innovate:情報を共有しアイデアを分かち合いイノベーションを起こす。それによって 社員と会社の関係性が高まり、外部からの評価も高まる。

「オープン・リーダーシップ」の公式サイト(英語)
https://www.charleneli.com/open-leadership/

■エレクセの所感:そこら中に活きた先生(師)がいる世界へ
・ASTDの会場ではTwitter、Linked-Inなどのソーシャル・メディアを使った参加者 同士の意見共有、ネットワーキングが盛んに行われた。参加者の多くは専門家で、 お互いが持つ知識・経験、情報の交換は現実感あふれるもの。中には、その場で 研修講師の仕事を依頼される人も出てきて、「この盛り上がりに乗り遅れるとまずい のでは…」と思わせる雰囲気だった。
・ソーシャル・メディアのおかげで、組織の枠を超えて「他者から学ぶ」ということが ますます容易になった。誰が講師で誰が生徒かは、学びのトピックに関する経験で 得た知識や見識をどのくらい持っているかによって変わり、固定されない。
・弊社が実施する研修の感想でも、アクションラーニングで現場実践したことから得た 気づきを持ちよって、参加者同士(Pier to Pier)で省察、共有するワークショップが 非常に役立ったという回答が目立つ。
・自分や人の経験から学ぶ人が多いとすれば、学校教育の延長の、一律の知識 付与を狙う教室型研修の役割はそのうち終わるかもしれない。

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○欧米の人材開発におけるお財布事情はどうなっているのか?


第3回は、ヨーロッパの人材開発コンサルティング企業であるCegosグループが 調査した世界各国1000以上の組織における人材開発の状況を欧米のトレンドを 中心に紹介します。

■講演概要
・Cegosグループは、ヨーロッパの人事・人材開発コンサルティング会社で、1926 年設立。世界50カ国に28ヶ所の支社を持ち、年間20万人に対しトレーニング を実施。
・ASTD2010の報告では、世界の各地域(EU、北米、中南米、アジア、中東、 アフリカ)の1000以上の組織(社員500名以上規模)の社員、人事・人材開発 責任者を対象とした調査の結果が紹介された。
・Cegosは、現在の人材開発の課題について、予算がますます厳しく、少ない 投資でより大きな効果が求められ、効果の指標としてROI(投資利益率)への 注目が高まっていることと、テクノロジー学習に慣れた若い世代が働き始め、 企業へのテクノロジー学習導入が必要となることを主張していた。
・一方、社員たちの学習の傾向として、個人や組織の外で学びたい人が増加して いる。90%の人が研修の成果を仕事に生かし、76%の人が業務外で研修を受け たいと思っている。また、53%の人は自費で学ぶ意思があり、35%の人は、自社 の人材開発部門に失望を感じている(特に大企業で顕著)という調査結果が紹介 された。
・今回の発表から、欧米の人材開発への投資の主な傾向を紹介すると、
  -米国の一人当たり研修予算は800ドル、EUは750ドル(2009年)。
  -米国では、専門の業務知識、ITスキルなど、業務上必須となる研修への支出が劇的に増えている。これらの
       研修予算が人材開発予算全体で占める割合は、 前年に比べ5%以上伸長。EUでも同様の傾向(2008年)。
  -米国・EUともセールス研修、マネジャー研修には投資継続。ただし、米国では、 経営幹部研修の予算全体に
       占める割合は3%程度減少。
・また、研修の提供方法は、欧米とも、依然として集合研修の比率が高いが、EU ではE-ラーニングやオンライン学習と対面の研修を組み合わせたブレンデッド・ ラーニングの割合が増えている。
・一方、上司によるインフォーマルなコーチングやOJTの重要性があらためて注目されている。

■エレクセの所感:予算削減の中、OJTは救世主か?
・日本だけでなく、欧米でも、景気後退による人材開発予算・トレーニングスタッフ の削減の中、いかに研修の効果を保持しながら効率をあげるかに苦心している中、 ITをツールにしくみの効率化を図るだけでなく、その対極にある個対個のインフォ ーマルなコーチング、OJTの重要性に注目が集まっている。
・気になるのは、効果的だからOJTにウェイトを置くのではなく、「研修に使える 予算が少ないからOJT頼み」「何とか現場で教育してもらおう」になっていない かどうか。現場は人員削減やベテラン引退、マネジャーの管理スパンの拡大で OJTどころではないという声をよく聞く。
・さらにもっと根源的なマネジャー個人の内面に目を向けると、「マネジャーが人材 育成に対し十分に意欲を持てているのか」という疑問にもぶつかる。これは、部 下育成に取り組むことで、部下たちが成長する喜びと自分自身の指導者としての 成長実感を得て「人を育てたい」と思う経験を、マネジャーにどれだけさせてきたか ということの結果にも思えてしまう。
・OJTに必要な資源は、実は予算よりも手に入れるのが難しいのかもしれない。

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○アジアでも、脱「集合研修」が徐々に浸透中


第4回は、ヨーロッパの人材開発コンサルティング企業であるCegos グループが調査した世界各国1000以上の組織における人材開発の 状況からアジアのトレンドを紹介します。

■講演概要
・Cegosグループは、ヨーロッパの人事・人材開発コンサルティング会社で、 1926年設立。世界50カ国に28ヶ所の支社を持ち、年間20万人に対し トレーニングを実施。
・ASTD2010の発表では、世界の各地域(EU、北米、中南米、アジア、 中東、アフリカ)の1000以上の組織(社員500名以上規模)の社員、人事・ 人材開発責任者を対象とした調査の結果が紹介された。
・2008年および2009年の調査を元にCegos が説明した要約では、アジア では、いまだクラスルーム形式の集合研修が、学習手法として広く利用されて いる。その一方、E-ラーニング単体を通じた学習が、インド、ASEAN諸国、 日本、韓国では増えている。
・また、E-ラーニングやオンライン学習と対面の研修を組み合わせたブレ ンデッド・ラーニングの割合が、特に豪州と中国で増加している(しかし、 中国では、全体から見ると、大量の集合研修に焦点があてられている)。
・急速なグローバル経済発展を遂げるインドと中国が特に注目している 学習のテーマは、以下の通りである。
  -ビジネスプロセスの再構築(リ・エンジニアリング)
  -リーダーシップおよび経営管理におけるコミュニケーションスキル
  -品質プロセス
  -知的財産管理に関する課題
  -経営知識
  -リスク管理
・上記のうち、品質プロセス、知的財産管理、経営知識などの知識習得 中心の学習に関しては、E-ラーニングや集合研修が利用され、その他の、 実践を組み込むことで効果的な習得が期待できるテーマに関しては、 ブレンデッド・ラーニングの手法が主に採用されている。
 
■エレクセの所感:韓国企業の「グローバルに学ぶ」徹底ぶり
・ASTD2010における米国外からの参加者総数は77カ国1800名で あり、国別トップは韓国の390名、日本は4位で103名だった。
・韓国のサムスンは、人材育成部門から40名もの人をこの会議に送り 込み、個々のセッション終了直後にその内容を本国へ細かにレポート させているということだった。
・韓国企業が参加者数トップなのはここしばらく変わらないが、昨年までの 韓国企業の多くは、同国の人材育成担当者同士の交流を図る研修旅行と してASTDに参加しており、自国の参加者同士で集まり、セッションでは ほとんど発言しない、という状況だった。それが今年はうって変わり、 グループディスカッションでは、慣れたディスカッションマナーで、切れ味 鋭い意見や質問を次から次へと繰り出していた。
・売上高1700億ドル超のグローバル企業グループとはいえ、一企業が 米国を中心としたグローバル人材育成の現状を徹底的に調査して自社の やり方に活かそうとするこの姿勢。人材育成への徹底した熱意と戦略には 驚きを隠せない。

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○経営者が教育研修プログラムに望んでいる成果


ASTDのセッションで企業の人材開発責任者が集まると、必ず語られる 「もっと人材開発に投資する予算が欲しいのに、経営者の理解が得られ ない」という悩み。
第5回は、研修評価・効果測定理論と手法の権威たちの対話から、 「経営者が求める教育研修の価値」について考察します。

■講演概要
・今回のパネルディスカッションは、研修効果測定の4段階評価モデルの 普及に努めるジェームズ・カークパトリック博士、ROI(投資収益率)の考え 方を研修効果測定に応用した5段階評価モデルの提唱者である ジャック・フィリップス博士、研修そのものだけでなく、準備や事後のフォロー など研修プロセス全体を評価する必要があることを明らかにしたウェスタン・ ミシガン大学のロバート・ブリンカホフ博士の3名が、「ビジネスの価値を 最大限にするためにいまこそ学習を活かそう」というテーマで、経営者の 教育研修への期待を考察した。
・カークパトリック博士によると、4段階モデル(※1)におけるレベル1(反応: 参加者の研修への満足度に対する評価)の結果に注目している経営トップは 30%、レベル2(学習:参加者の学習に対する評価)の結果に対しては22%に 過ぎない。
・しかし、レベル3(行動:参加者の現場での行動の変化に対する評価)の 結果になると注目度は60%に上昇する。そして、レベル4(結果:研修実施の 目的に合わせた事業や組織上の成果に対する評価)の結果については 80%もの経営者が注目していると言う。
・つまり、経営者に対し、教育研修単体がどうだったか、ということを成果として 示してみても、それはあまり意味をなさない。教育研修の効果がビジネスに おいて価値を出さなければ、教育研修の価値は認められない。
・人材育成責任者が経営者の頼もしい戦略パートナーとなるには、自社の ビジネスとそのKPI(=Key Performance Indicator:管理指標)を理解し、 KPIを維持または向上させることを目的とした教育研修プログラムを設計 することが大切である。同様に、人材開発責任者は、教育研修の企画実施 そのものでなく、自社のビジネスに貢献できることを示すべきである。
(※1)出典:Donald L. Kirkpatrick著「Evaluating Training Programs: The Four Levels」 

■エレクセの所感:現場で研修を活かすということ
・前述のブリンカホフ博士の研究(※2)では、効果のない研修の原因の 40%は研修の準備(研修実施前の動機付け不足)にあり、もう40%は 研修後のフォロー(職場での実践フォロー不足)にある。つまり、研修実施 (研修のミスマッチ)は原因の20%でしかない。
・それなのに、人材開発部門は、まだまだ教育研修そのものの設計や運営 の細部にばかりこだわっていないだろうか。
・参加者が研修を終えて現場に戻ったとき、「研修で何を学んできたのか。 それを仕事にどう生かすのか」ということを尋ねる上司はどれくらいいる だろう?「研修で息抜きをしてきたのだから仕事が遅れた分を早く取り戻して ほしい」などと言っていないか?
・教育研修をビジネスの価値に結び付けるためには、「なぜ研修で学んできた ことを現場で実践しないのか」、上司がそう問いかける風土であってほしい。
(※2)出典:Tim Mooney、Robert O. Brinkerhoff著「Courageous Training」

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トナーズ,強い会社は社員が偉い,問題発見,問題解決,リーダーシップ,L-EXCE" />

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ここでは、2013年に取材した、リーダーシップ開発に関する新しいトレンドとそこで得た知見をピックアップして皆様にお届けします

2010年度 開催日:2010年5月16日~20日 開催地:米国イリノイ州シカゴ

2010年度 ATD国際会議 関連記事一覧


► 弊社発行メールマガジン記事
  ASTD2010にみるリーダーシップ開発のWhat's New

  

○モチベーション向上の3つのキーワードが見えた


第1回は、最近、著書「モチベーション3.0」(大前研一訳)が日本でも 発売されたジャーナリストのダニエル・ピンク氏が基調講演で語った 「モチベーションを向上させるキーワード」について考えます。

■講演概要

・講演者のダニエル・ピンク氏は、世界的ベストセラー『ハイ・コンセプト』 (大前研一訳)を世に送り出した注目のジャーナリスト兼コンサルタント。
ゴア元副大統領の演説の素案を書いていたことでも有名。マシンガントークの 早口で、大きな身振り手振りを交え、途中でマイクを壊すくらいのエネルギッ シュな講演を行ってくれた。
・講演のメインテーマは、モチベーション。業務特性と必要なスキル特性をもとに、 mechanical skillが必要なオペレーション的業務と、rudimentary cognitive skillが 必要な複雑で創造的、概念的で繊細な業務の2つに大別し、モチベーションの 源泉について、前者に従事する人は金銭的報酬がパフォーマンス向上につなが るが、後者に従事する人には金銭的報酬がパフォーマンス向上に寄与しないと 訴えていた。
・後者の業務に従事する人がモチベーションを向上させるキーワードは、 Autonomy(自律)、Mastery(習熟)、Purpose(目的・存在意義)の3つ。 ・特に、自律については、Time(働く時間)、Task(仕事内容)、Team(働く仲間)、 Technology(活用する技術)の4つのTを働く人自身が選択できることが、 真の自律につながる。

■エレクセの所感:リーダーシップの原点とは?
・今年のASTD国際会議のテーマがFind your valueであったためか、本セッション だけでなく、さまざまなセッションで「自律」の大切さを説いていたのが印象に 残っている。
・そもそもリーダーシップの原点は自律。自分の人生や未来を自力で切り開いて いく中で、一緒に未来に向かう旅を歩んでくれる人が自然と集まってくるのが、 リーダーシップの理想の姿ではないか。
・そして、自律した人は、自分の職業観や組織理念(=Purpose)を軸に、社会・ 組織・自分自身の成長(=Mastery)を追い求めるもの。
・ピンク氏が、歴史上偉大な人物は、自分の存在意義や理想を語る「センテンスを 持っている」と、講演の最後を締めくくっていたのが秀逸だった。
・果たして、わたしたちはセンテンスを持てるような生き方をしているだろうか?

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○ソーシャル・メディアが変えるリーダーシップと人材開発


第2回は、シャーリーン・リー氏の基調講演から、twitter, Youtube, Facebook などソーシャル・メディア活用の高まりに対応した今後のリーダーシップと 人材開発のあり方について紹介します。

■講演概要
・スピーカーであるシャーリーン・リー氏は、ソーシャル・メディアとソーシャル・ テクノロジー分野のオピニオン・リーダーであり、米国でベストセラーになった 「グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略」の共著者。
・今回の講演のテーマは「オープン・リーダーシップ」。ソーシャル・メディアを 使ったディスカッションの場は広がっており、個人にパワー(権限)が移っていく。 リーダーはそれをコントロールできないので、いかにコントロールを手放し、社員 たちのAutonomy(自律性)を促しつつ支配力を持てるか、が大切になる。 そこで、リーダーに必要となるのは「透明性」であり、「情報共有や意思決定に おいてオープンになり、信頼する部下たちに権限委譲すること」。
・人材開発においても同様に、多くの人に対し、オープンにどのような情報を出して いくかを考えることが大切である。
・従来の人材開発部門は、学習の対象者とカリキュラムの内容、学習の場を決める ことを重視していたが、オープンな状態では、「何を学ぶかは社員を取り巻く環境 によって決まり」、「社員がいつでもどこでも学習でき」、「学習成果を測るために、 社員の行動変化を観察・評価しやすくする」方向性へとシフトする。
・人材開発をオープンにする戦略のゴールとして提示されたのが以下の4つ。
-Learn:社員に対し、いつでも常にコンテンツがオープンになっていること。併せて、 社員の学習・意見をモニタリングするためのツール(メディア)を用意し、そこから フィードバックを得る。
-Dialog:社員との対話によって学習についてのメッセージを発し、巻き込む。
-Support:会社は社員すべての学習ニーズには応えられないので、社内外の資源 をオープンに集めて、実践に結びつける。
-Innovate:情報を共有しアイデアを分かち合いイノベーションを起こす。それによって 社員と会社の関係性が高まり、外部からの評価も高まる。

「オープン・リーダーシップ」の公式サイト(英語)
https://www.charleneli.com/open-leadership/

■エレクセの所感:そこら中に活きた先生(師)がいる世界へ
・ASTDの会場ではTwitter、Linked-Inなどのソーシャル・メディアを使った参加者 同士の意見共有、ネットワーキングが盛んに行われた。参加者の多くは専門家で、 お互いが持つ知識・経験、情報の交換は現実感あふれるもの。中には、その場で 研修講師の仕事を依頼される人も出てきて、「この盛り上がりに乗り遅れるとまずい のでは…」と思わせる雰囲気だった。
・ソーシャル・メディアのおかげで、組織の枠を超えて「他者から学ぶ」ということが ますます容易になった。誰が講師で誰が生徒かは、学びのトピックに関する経験で 得た知識や見識をどのくらい持っているかによって変わり、固定されない。
・弊社が実施する研修の感想でも、アクションラーニングで現場実践したことから得た 気づきを持ちよって、参加者同士(Pier to Pier)で省察、共有するワークショップが 非常に役立ったという回答が目立つ。
・自分や人の経験から学ぶ人が多いとすれば、学校教育の延長の、一律の知識 付与を狙う教室型研修の役割はそのうち終わるかもしれない。

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○欧米の人材開発におけるお財布事情はどうなっているのか?


第3回は、ヨーロッパの人材開発コンサルティング企業であるCegosグループが 調査した世界各国1000以上の組織における人材開発の状況を欧米のトレンドを 中心に紹介します。

■講演概要
・Cegosグループは、ヨーロッパの人事・人材開発コンサルティング会社で、1926 年設立。世界50カ国に28ヶ所の支社を持ち、年間20万人に対しトレーニング を実施。
・ASTD2010の報告では、世界の各地域(EU、北米、中南米、アジア、中東、 アフリカ)の1000以上の組織(社員500名以上規模)の社員、人事・人材開発 責任者を対象とした調査の結果が紹介された。
・Cegosは、現在の人材開発の課題について、予算がますます厳しく、少ない 投資でより大きな効果が求められ、効果の指標としてROI(投資利益率)への 注目が高まっていることと、テクノロジー学習に慣れた若い世代が働き始め、 企業へのテクノロジー学習導入が必要となることを主張していた。
・一方、社員たちの学習の傾向として、個人や組織の外で学びたい人が増加して いる。90%の人が研修の成果を仕事に生かし、76%の人が業務外で研修を受け たいと思っている。また、53%の人は自費で学ぶ意思があり、35%の人は、自社 の人材開発部門に失望を感じている(特に大企業で顕著)という調査結果が紹介 された。
・今回の発表から、欧米の人材開発への投資の主な傾向を紹介すると、
  -米国の一人当たり研修予算は800ドル、EUは750ドル(2009年)。
  -米国では、専門の業務知識、ITスキルなど、業務上必須となる研修への支出が劇的に増えている。これらの
       研修予算が人材開発予算全体で占める割合は、 前年に比べ5%以上伸長。EUでも同様の傾向(2008年)。
  -米国・EUともセールス研修、マネジャー研修には投資継続。ただし、米国では、 経営幹部研修の予算全体に
       占める割合は3%程度減少。
・また、研修の提供方法は、欧米とも、依然として集合研修の比率が高いが、EU ではE-ラーニングやオンライン学習と対面の研修を組み合わせたブレンデッド・ ラーニングの割合が増えている。
・一方、上司によるインフォーマルなコーチングやOJTの重要性があらためて注目されている。

■エレクセの所感:予算削減の中、OJTは救世主か?
・日本だけでなく、欧米でも、景気後退による人材開発予算・トレーニングスタッフ の削減の中、いかに研修の効果を保持しながら効率をあげるかに苦心している中、 ITをツールにしくみの効率化を図るだけでなく、その対極にある個対個のインフォ ーマルなコーチング、OJTの重要性に注目が集まっている。
・気になるのは、効果的だからOJTにウェイトを置くのではなく、「研修に使える 予算が少ないからOJT頼み」「何とか現場で教育してもらおう」になっていない かどうか。現場は人員削減やベテラン引退、マネジャーの管理スパンの拡大で OJTどころではないという声をよく聞く。
・さらにもっと根源的なマネジャー個人の内面に目を向けると、「マネジャーが人材 育成に対し十分に意欲を持てているのか」という疑問にもぶつかる。これは、部 下育成に取り組むことで、部下たちが成長する喜びと自分自身の指導者としての 成長実感を得て「人を育てたい」と思う経験を、マネジャーにどれだけさせてきたか ということの結果にも思えてしまう。
・OJTに必要な資源は、実は予算よりも手に入れるのが難しいのかもしれない。

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○アジアでも、脱「集合研修」が徐々に浸透中


第4回は、ヨーロッパの人材開発コンサルティング企業であるCegos グループが調査した世界各国1000以上の組織における人材開発の 状況からアジアのトレンドを紹介します。

■講演概要
・Cegosグループは、ヨーロッパの人事・人材開発コンサルティング会社で、 1926年設立。世界50カ国に28ヶ所の支社を持ち、年間20万人に対し トレーニングを実施。
・ASTD2010の発表では、世界の各地域(EU、北米、中南米、アジア、 中東、アフリカ)の1000以上の組織(社員500名以上規模)の社員、人事・ 人材開発責任者を対象とした調査の結果が紹介された。
・2008年および2009年の調査を元にCegos が説明した要約では、アジア では、いまだクラスルーム形式の集合研修が、学習手法として広く利用されて いる。その一方、E-ラーニング単体を通じた学習が、インド、ASEAN諸国、 日本、韓国では増えている。
・また、E-ラーニングやオンライン学習と対面の研修を組み合わせたブレ ンデッド・ラーニングの割合が、特に豪州と中国で増加している(しかし、 中国では、全体から見ると、大量の集合研修に焦点があてられている)。
・急速なグローバル経済発展を遂げるインドと中国が特に注目している 学習のテーマは、以下の通りである。
  -ビジネスプロセスの再構築(リ・エンジニアリング)
  -リーダーシップおよび経営管理におけるコミュニケーションスキル
  -品質プロセス
  -知的財産管理に関する課題
  -経営知識
  -リスク管理
・上記のうち、品質プロセス、知的財産管理、経営知識などの知識習得 中心の学習に関しては、E-ラーニングや集合研修が利用され、その他の、 実践を組み込むことで効果的な習得が期待できるテーマに関しては、 ブレンデッド・ラーニングの手法が主に採用されている。
 
■エレクセの所感:韓国企業の「グローバルに学ぶ」徹底ぶり
・ASTD2010における米国外からの参加者総数は77カ国1800名で あり、国別トップは韓国の390名、日本は4位で103名だった。
・韓国のサムスンは、人材育成部門から40名もの人をこの会議に送り 込み、個々のセッション終了直後にその内容を本国へ細かにレポート させているということだった。
・韓国企業が参加者数トップなのはここしばらく変わらないが、昨年までの 韓国企業の多くは、同国の人材育成担当者同士の交流を図る研修旅行と してASTDに参加しており、自国の参加者同士で集まり、セッションでは ほとんど発言しない、という状況だった。それが今年はうって変わり、 グループディスカッションでは、慣れたディスカッションマナーで、切れ味 鋭い意見や質問を次から次へと繰り出していた。
・売上高1700億ドル超のグローバル企業グループとはいえ、一企業が 米国を中心としたグローバル人材育成の現状を徹底的に調査して自社の やり方に活かそうとするこの姿勢。人材育成への徹底した熱意と戦略には 驚きを隠せない。

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○経営者が教育研修プログラムに望んでいる成果


ASTDのセッションで企業の人材開発責任者が集まると、必ず語られる 「もっと人材開発に投資する予算が欲しいのに、経営者の理解が得られ ない」という悩み。
第5回は、研修評価・効果測定理論と手法の権威たちの対話から、 「経営者が求める教育研修の価値」について考察します。

■講演概要
・今回のパネルディスカッションは、研修効果測定の4段階評価モデルの 普及に努めるジェームズ・カークパトリック博士、ROI(投資収益率)の考え 方を研修効果測定に応用した5段階評価モデルの提唱者である ジャック・フィリップス博士、研修そのものだけでなく、準備や事後のフォロー など研修プロセス全体を評価する必要があることを明らかにしたウェスタン・ ミシガン大学のロバート・ブリンカホフ博士の3名が、「ビジネスの価値を 最大限にするためにいまこそ学習を活かそう」というテーマで、経営者の 教育研修への期待を考察した。
・カークパトリック博士によると、4段階モデル(※1)におけるレベル1(反応: 参加者の研修への満足度に対する評価)の結果に注目している経営トップは 30%、レベル2(学習:参加者の学習に対する評価)の結果に対しては22%に 過ぎない。
・しかし、レベル3(行動:参加者の現場での行動の変化に対する評価)の 結果になると注目度は60%に上昇する。そして、レベル4(結果:研修実施の 目的に合わせた事業や組織上の成果に対する評価)の結果については 80%もの経営者が注目していると言う。
・つまり、経営者に対し、教育研修単体がどうだったか、ということを成果として 示してみても、それはあまり意味をなさない。教育研修の効果がビジネスに おいて価値を出さなければ、教育研修の価値は認められない。
・人材育成責任者が経営者の頼もしい戦略パートナーとなるには、自社の ビジネスとそのKPI(=Key Performance Indicator:管理指標)を理解し、 KPIを維持または向上させることを目的とした教育研修プログラムを設計 することが大切である。同様に、人材開発責任者は、教育研修の企画実施 そのものでなく、自社のビジネスに貢献できることを示すべきである。
(※1)出典:Donald L. Kirkpatrick著「Evaluating Training Programs: The Four Levels」 

■エレクセの所感:現場で研修を活かすということ
・前述のブリンカホフ博士の研究(※2)では、効果のない研修の原因の 40%は研修の準備(研修実施前の動機付け不足)にあり、もう40%は 研修後のフォロー(職場での実践フォロー不足)にある。つまり、研修実施 (研修のミスマッチ)は原因の20%でしかない。
・それなのに、人材開発部門は、まだまだ教育研修そのものの設計や運営 の細部にばかりこだわっていないだろうか。
・参加者が研修を終えて現場に戻ったとき、「研修で何を学んできたのか。 それを仕事にどう生かすのか」ということを尋ねる上司はどれくらいいる だろう?「研修で息抜きをしてきたのだから仕事が遅れた分を早く取り戻して ほしい」などと言っていないか?
・教育研修をビジネスの価値に結び付けるためには、「なぜ研修で学んできた ことを現場で実践しないのか」、上司がそう問いかける風土であってほしい。
(※2)出典:Tim Mooney、Robert O. Brinkerhoff著「Courageous Training」

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